「一万一千本の鞭」

アポリネール/須賀慣訳

ドットブック 192KB/テキストファイル 119KB

500円

ホモ、レズ、糞尿譚、獣姦、サド、マゾ、殺人など、ありとあらゆるエロスの極致がないあわされた驚天動地の奇書。奇才アポリネールの手になる破天荒なエロチカ。
立ち読みフロア

  ブカレストは、東洋と西洋が渾然《こんぜん》一体となって混じり合ったように見える、美しい町である。ただ地理的な立場だけに気を留めれば、まだヨーロッパにいるような気がするが、ひとたび、まるで絵に画いた見本のような街路の中で見かける、この国のさまざまな風俗や、トルコ人、セルビア人、その他のマケドニアの諸民族の姿に信を置くとなれば、すでにアジアのうちにいるような気になる。
 けれども、ここはあくまでラテン民族の国である。かつてこの国を植民地としたローマの兵士たちは、おそらく四六時中ローマのほうに考えを向けていたにちがいない。ローマといえば、当時は世界に冠たる首都であり、優雅を誇るものすべての中心地だった。西洋に対するこうしたノスタルジーは、彼らの子々孫々にまで伝えられた。ルーマニア人たちは奢侈贅沢《しゃしぜいたく》が日常茶飯事のように当たり前で、楽しい生活を送れる町をたえず念頭に置いている。ところがローマはそのはなばなしい栄華から凋落《ちょうらく》して、町々の女王という地位を落ち、パリにその王冠を譲ってしまった。一種の隔世遺伝的な現象から、ルーマニア人たちの思考が、たえず、じつにみごとに世界の首長の座をローマと交代したパリの方向に向かったことは、まことに驚くべきことである!
 ほかのルーマニア人と同じように、美貌《びぼう》のヴィベスクも、女性という女性がすべて美しく、また女性がこぞって尻《しり》の軽い光の都、パリに思いを馳《は》せていた。彼がまだブカレストの大学に籍を置いていた当時も、彼はひとりのパリジェンヌを思い描き、パリジェンヌという言葉を聞いただけで、じゅうぶん彼の男性が天を衝《つ》いて固くなり、いわん方なきしあわせな思いを噛《か》みしめながら、ゆっくりゆっくりとマスターベーションにふけったものだった。ずっと後になって、彼はその味の良いこと、えも言われぬほどのルーマニア女の多くのコン〔女陰〕や臀《しり》の中に精を洩らしたものだった。彼にとってそれは実に快適であったが、しかしそれだけにどうしてもパリジェンヌがひとり必要だったのである。

……巻頭より

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