「イソップ寓話(1・2)」

イソップ/亀山龍樹訳

(1)ドットブック 116KB/テキストファイル 42KB
(2)ドットブック 114KB/テキストファイル 40KB

各500円

紀元前5世紀のヘロドトスの「歴史」に出てくる作者イソップ。だがその生涯はよくわからない。しかし、イソップ作とされる寓話の数々は、いつしかまとめられて多くの国の言葉に訳されて普及した。日本でも1593年に『天草本伊曾保《いそぽ》物語』が出版された。おもに動物や植物を材料に書かれたその寓話は、末尾の警句とともに、大人が改めて読んでも非常におもしろい。本寓話集には、(1)に148編の寓話を、(2)には120編の寓話と、同じく寓話作家として有名なラ・フォンテーヌの手になる、これも非常におもしろいイソップの伝記寓話15編が収めてある。

イソップ(前620頃〜560頃) トラキアあるいは小アジア生まれといわれるギリシアの寓話作家。ギリシア名はアイソポスだが、日本ではふつうイソップという。サモスの市民イアドモンの奴隷だったが、のちに解放され、デルフォイで殺されたという。その寓話は前5世紀末にはすでに有名だったが、すべてを彼が創作したわけではなく、以前からのいろいろな寓話も混じっているといわれる。のちに書物にまとめられ、2世紀にバブリオスがまとめたものが、今に残る。

立ち読みフロア

木像売り

 ある男が、ヘルメス〔ギリシア神話のオリンポス十二神の一人。商業や使節や盗賊の神にもなっている。美術ではふつう、美青年で、幅広の帽子をかぶり、つえ《ヽヽ》を持ち、つばさのついたサンダルをはいている〕の木像をこしらえて、市場で売ろうとしました。けれど買い手がつきません。男は客をよびよせようと大声をはりあげました。
「金をもうけさせてくださる、ごりやくあらたかな福の神さまだよ、さあ、買った買った」
 すると、そばにいた人が、男にいいました。
「おいおい、おまえさんのいうことがほんとうなら、福の神さまを売ったりなんかしないで、自分でそのごりやくにあずかったらいいじゃないか」
 男は答えました。
「わたしは、すぐにも金がほしいんでね。ところが、この神さまはぐず《ヽヽ》で、ごりやくがおそいんだよ」
 ◆神さまをとうとぶよりも、目さきの利益にがつがつする人にぴったりの話。


ワシとキツネ

 ワシとキツネが仲よしになり、おたがいに近くに住んで、もっとしたしくつきあうことにしました。そこで、ワシは高い木の上に巣をつくり、キツネはその根もとのやぶ《ヽヽ》にはいって、子どもをうみました。
 ある日、キツネがえさ《ヽヽ》をさがしに出かけたあとのことです。食べ物がなくてこまったワシは、やぶのなかにはいって、キツネの子どもたちをさらい、自分の子どもたちにも分けて、食べてしまいました。やがてキツネがもどってきて、そのできごとを知り、子どもたちの死を悲しみました。そして、それより、ワシにかたきうちができないことを、もっと悲しみました。キツネは地上の動物で、空を飛ぶ鳥を追いかけることはできません。キツネは遠くから、敵を呪うだけでした。無力な弱いものには、そんなことしかできないのです。
 しかし、ほどなく、ワシは友情をやぶった罰をうけることになりました。人びとが野原でヤギを殺して、神にささげる儀式をしていたときに、例のワシが飛びおりてきて、燃えているヤギのはらわたを祭壇からかすめとり、自分の巣に持ってもどったのです。
 ところが、風がはげしく吹きつけて、はらわたについていた火が、巣の古いわら《ヽヽ》にうつり、巣は燃えあがりました。ワシのひな《ヽヽ》はまだ羽がはえそろっていなかったので、焼けて地面に落ちました。キツネはさっそくかけよって、ワシの見ている前で、そのひなをみんな食べてしまいました。
 ◆友情をやぶると、相手が弱いせいで、仕返しをうけないでも、そのうちに天罰がてきめんというわけ。


ワシとカブト虫

 ワシがウサギを追いかけていました。ウサギは、助けがほしかったものの、カブト虫〔コガネムシ科に属していて、けもののふん《ヽヽ》を玉にして運ぶタマオコシコガネなどがあり、その生態はファーブルの『昆虫記』でゆうめい〕が一ぴきしか見つかりませんでした。カブト虫は、しっかりしろとウサギをはげまして、追ってきたワシにいいました。
「わたしにすくいをもとめているこのウサギを、さらっていかないでください」
 しかしワシは、なんだ、このちびめが、とカブト虫をばかにして、目の前でウサギを食べてしまいました。
 それからというものカブト虫は、ワシにうらみをいだいて、ワシの巣をたえず見張っていました。そして、ワシがたまご《ヽヽヽ》をうむと、そのたびに飛んでいって、たまごをころがして割ってしまうのでした。
 ワシは、どこに巣をつくってもカブト虫におそわれるので、とうとうゼウス〔ギリシア神話のオリンポス十二神の主神。宇宙の支配者〕にすがりました。というのは、ワシはゼウスにつかえている鳥だったからです。ワシはゼウスに、安心してたまごをうめる場所をつくってください、とねがいました。そこでゼウスは、自分のひざの上でたまごをうんでいいと、許可しました。
 そのことを知ったカブト虫は、けもののふん《ヽヽ》でまるい玉をつくり、それをゼウスのひざの上に落としました。ゼウスは、ふんの玉をはらいのけようと立ちあがりましたが、そのひょうしに、ワシのたまごを地上に落としてしまいました。そのときから、ワシはカブト虫があらわれる季節には、巣をつくらなくなったそうです。
 ◆どんなものでも、あなどられた仕返しをしないほどの弱虫はいない。


ワシとカラスとヒツジ飼い

 ワシが高い岩の上から舞いおりて、子ヒツジをさらっていきました。それを見ていたカラスは、うらやましくなって、よし、おれもまねをしてやろう、と思いました。で、大きな羽音をたてて、一頭の雄ヒツジに飛びおりたところ、つめ《ヽヽ》がヒツジの巻毛にからまって、ぬきとることができなくなりました。羽をばたばたやっていると、ヒツジ飼いがそれに気づいて、走ってきてカラスをつかまえ、羽のはしをちょんぎってしまいました。
 夕方になり、ヒツジ飼いはそのカラスを子どもたちのみやげに持って帰りました。子どもたちが、それはなんという鳥なの、たずねたので、ヒツジ飼いは答えました。
「わしにいわせりゃ、まちがいなしのカラスだがね。ご本人は、自分は『ワシじゃ』と、おっしゃるだろうよ」
 ◆身のほど知らずのふるまいは、なんにもならないばかりか、ひどいめにあって、もの笑いにされるということ。

……最初の四話

購入手続きへ( 


*** 作品一覧へ *** ホームページへ ***