「アンデルセン童話集2」

アンデルセン/山室静訳

エキスパンドブック 662KB/ドットブック版 198KB/テキストファイル 161KB

500円

この第2集には、面白い着想の「馬車で来た十人のお客」、楽しい「コガネムシ」、ユーモラスな「とうさんのすることにまちがいはない」、名作「雪だるま」のほか、ちょっと深刻な指折りの大作「砂丘の物語」、童話というよりはむしろ小説と言ったほうが適当な「氷ひめ」など、アンデルセンの後年の代表作14編を収めた。エキスパンドブック版は挿し絵入り。

収録作品

「きれいな人!」
砂丘の物語
人形つかい
ふたりの兄弟
古い教会の鐘
馬車で来た十二人のお客
コガネムシ
とうさんのすることにまちがいはない
雪ダルマ
あひる小屋で
あたらしい世紀のミューズ
氷ひめ
チョウ
プシケ

立ち読みフロア
 王さまのウマが、金(きん)のくつをいただきました。一本一本の足に、金のくつをはくわけです。
 いったいどういうわけで、王さまのウマは、金のくつをもらったのでしょうか。
 このウマは、すらりとした足と、とてもかしこそうな目と、きぬのべールみたいに首のまわりにたれさがったたてがみをもった、このうえもなく美しいウマでした。
 そして王さまを乗せて、もうもうたる火薬(かやく)のけむりや、たまの雨の中を走って、ヒューヒューうなるたまの音を聞いたこともありました。敵(てき)がおしよせてくると、そこらじゅうかみついたり、けりつけたりして、たたかいもしました。
 また、王さまを乗せたまま、たおれた敵のウマをひととびでとびこえて、王さまの金のかんむりをすくったこともありましたし、金よりももっととうとい王さまの命を、おたすけしたことさえあったのです。だからこそ、王さまのウマは、金のくつをいただいたわけです。一本一本の足にね。
 そこへ一ぴきのコガネムシが、はい出してきていいました。
「はじめには大きいもの、つぎには小さいもの。――そういったからって、大きいばかりが能(のう)じゃないがね」
 こういって、じぶんのほそい足をつき出しました。
「なにをおまえは、ほしいんだね」と、かじ屋さんが聞きました。
「金のくつでさ」と、コガネムシはいいました。
「おまえ、どうかしているぞ。おまえも金のくつがほしいんだと」と、かじ屋さんはいいました。
「ぼくだって、そこにいる大きい動物くらいりっぱじゃありませんか。そいつだけがだいじにされて、ブラシをかけてもらったり、たべものやのみものをもらっていいんですかね。ぼくだって、おなじ王さまのうまやのものじゃないの」
 こう、コガネムシはいいました。
「そんなこといったって、このウマはなぜ金のくつをいただいたのかね。おまえにはそれがわからんのか」と、かじ屋さんはいいました。
「わからないって。ぼくにたいするそんけいがたりないことくらいわかるさ」と、コガネムシはいいました。
「ふん、ばかにしてやがる。――そんならぼくは、広い世界へ出ていっちまうぜ」
「さっさと出ていきな」と、かじ屋はいいました。
「いやなやつ」コガネムシはこういって、外へとび出しました。
 すこしとんでいくと、きれいな小さい花園(はなぞの)があって、バラとラベンダーがいいにおいをたてていました。
「ここはきれいでしょ」と、赤いよろいのようなはねに、黒いぼちぼちをつけてとびまわっていたテントウムシがいいました。
「なんていいにおいなんでしょう。なんてここはきれいなんでしょう」
「ぼくはもっと上等(じょうとう)のばしょになれてるんだ。こんなとこがきれいだって? ここにはこやしの山さえないじゃないか」と、コガネムシはいいました。
 そして、なおもさきへ行くと、大きなアラセイトウのかげに来ました。その葉っぱの上には、一ぴきのケムシがはっていました。
「なんてこの世界は、すばらしいんだろう。お日さまはぽかぽかてってるし、なにもかもがよろこんでるんだ。しかもぼくは、一度ぐっすりねむりこんで、みんなのいう死から目をさまそうものなら、そのときは、はねがはえて、チョウになってるんだぜ」
 こう、ケムシはいいました。
「うぬぼれちゃいけないよ」と、コガネムシはいいました。
「そんならいまふたりで、チョウみたいにとんでみようじゃないか。ぼくは王さまの馬小屋から来たんだがね、あそこじゃ、そんなゆめみたいなことを考えてるものは、ひとりだっていやしないぜ。ぼくのはき古しの金のくつをはいている、王さまのウマだってさ。はねがはえて、とぶんだって! そんならいまふたりで、とぼうじゃないか」
 こういってコガネムシは、とび立ちました。
「はらをたてたくはないが、ついたっちまうよ」
 やがてコガネムシは、広い草原(くさわら)にまいおりました。そこでしばらくじっとしているうちに、ぐっすりねむりこんでしまいました。
 おやおや、きゅうに夕立(ゆうだち)になりました。なんというふりようでしょう。コガネムシは、雨の音を聞いて目をさまし、いそいで土の中にもぐりこもうとしましたが、そうはいきません。はらばいになったり、ひっくりかえったりして、水の中をはいまわったり、およいだりしました。
 こうなっては、とび立つなんてことは、思いもよりません。とてももう、生きてこの場をのがれることは、できそうもありませんでした。そのままそこにころがって、じっとしていました。
……「コガネムシ」より

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