「千夜一夜物語(1)」

リチャード・バートン編大場正史訳

エキスパンドブック 2313KB テキスト439KB

1400円

「アラビアン・ナイト」の無削除完全版として有名なバートン版を、大場正史氏の生涯をかけた翻訳で贈る。「アリババ」や「アラジン」や「シンドバッド」は誰でも知っているが、本来の「千夜一夜物語」はそれだけのものではまったくない。

女性に対する不信から、夜ごと一夜妻を殺し続けるシャーリヤル王。その夜伽《よとぎ》に選ばれた才女シャーラザットは、「明日の晩はもっと面白い話があります」「こんな話もあります」といって一夜ずつ身の破滅をのがれる。話の内容は千変万化、ファンタジーあり、恋愛譚あり、悲喜劇あり、人情話あり、猥談あり、悪漢・盗賊ものあり、歴史物語あり、寓話あり…いつしか千一夜にもおよぶ一大物語集に。健康なエロティシズムと強靭な精神にあふれたイスラム世界への最高の案内書。全9巻。この巻に収められた「バグダッドの軽子と三人の女」や「床屋の六人の兄の話」は、「千夜一夜物語」全編の中でも屈指のこっけい譚。どんな人でも驚き、笑わないではいられない。エキスパンドブック版には各巻とも、レイン版からのエッチング図版を多数収録。

リチャード・バートン(1821〜90)英国生まれアイルランド系の破天荒な探検家、東洋学者。幼いときイタリア・フランスで過ごしたこともあって語学的天分に恵まれ、修めた外国語は35カ国語にものぼる。とくにアラビア語、ペルシア語、ヒンドゥー語をはじめとする東洋諸語では、他の追随を許さないほど堪能だった。インド・アラビア・アフリカ圏の前人未到の地をヨーロッパ人としてはじめて幅広く探検、タンガニーカ湖の発見など探検史にのこる足跡をのこした。なかでも回教徒に偽装してメッカ巡礼を果たしたときの見聞記「メッカ巡礼」は、アラビアの風習、宗教、自然の生彩ある筆致によって大評判をとった。こうしたアラビアに関する百科全書的な知識をバックに、情熱を傾けてなったのが「千夜一夜物語」全17巻の翻訳だった。 

賛辞の数々:「世の中に数々の奇蹟はあるが、アラビアンナイトほど絢爛としたアラベスクはない。無二の精巧さに飾られ磨き上げられた人間のイメージのあふれた宝石箱である」(石原慎太郎)
「バートンの訳は定評のあるものであって、これで初めてこのアラビアの古典が、その真実の姿を世界に現わしたといえる。ここには豪華な饗宴が我々を待っている」(吉田健一)

立ち読みフロア
 おお、恵み深い王さま、むかし、たいそうゆたかで、いろいろな都で商売をしている、ひとりの商人がおりました。さて、ある日のこと、商人は馬に乗って、ある町へ勘定とりに出かけました。ところが、ひどい暑さでたまらなくなった商人は、とある木かげに腰をおろして、鞍袋(くらぶくろ)の中に手をつっこむと、パン切れと乾し棗(なつめ)をとり出し、朝ご飯を食べ始めました。食べ終わると、商人は力まかせに、棗の核(さね)をほうり投げました。すると、どうでしょう! 雲をつくばかりの大きな魔神(アイフリット)が抜刀(ぬきみ)をふりかざして現われ、商人に近づいて、こう申しました。
 「こら、立て、おれの伜(せがれ)を殺したからには、おれもきさまを生かしてはおけん!」
 商人が「どうしてわたしがあなたのご子息を殺したんでしょう?」とたずねると、魔神は「きさまが棗(なつめ)をくって核(さね)を投げたとき、伜が通りかかって、ちょうど胸にあたったんだ。そのため伜はその場で死んだのだ!」と答えました。
 そこで、商人は申しました。「まことにわれらはアラーより出て、アラーへ還(かえ)る者なり、慈悲深く偉大なアラーのほかに、主権なく、権力なし! てまえがあなたのご子息を殺したとしても、それはほんとのあやまちですよ。どうかお許しください」
 けれども、魔神は「きさまを殺す以外に道はないわい」といって、商人をひっつかみ、ひきずって、地面に投げ倒すと、刀をふりあげて今にもふりおろそうとしました。そこで、商人は泣いて申しました。「こうなれば、アラーにおすがりするよりしかたがない」
 そして、つぎのような歌をくちずさみました。

  歳月にふたつの日あり
  祝福とわざわいの日と。
  人の世もあい半(なか)ばして
  喜びと悲しみとあり。
  君知るや、颶風(ぐふう)おこりて
  げに強く 吹きまくるとき、
  森に立つ巨木のみ
  はげしき嵐に悶(もだ)えるは。
  枯れ草の、また緑なす
  大地より木々は育てど、
  実をむすぶ樹木よりほか
  つぶての痛手かこつものなし。
  ……

 商人が歌い終わると、魔神は言いました。
「おしゃべりをやめろ! どうあっても、きさまの命はもらわにゃならん」

……《商人と魔神の物語》より


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