「千夜一夜物語(4)」

リチャード・バートン編/大場正史訳

エキスパンドブック 1336KB テキスト/359KB

1400円

本巻に収めたアラビア夜話「黒檀(こくたん)の馬」は、インドに発してエジプトで発展し、ギリシア神話のペガサスにひきつがれたといわれる素晴しい神話的物語である。また、趣向の変わった恋愛もの「アリーシャルとズムルッド」、獣姦を扱った珍しい話「肉屋のワルダンと女と熊」と「王女と猿」、リリシズムの香りが高い「ウンス・アル・ウユドとばら姫」、当時のエジプト民衆がいかに権力者をみくびっていたかをうかがわせる警備頭(ワリ)の出てくる三編など、ユーモアとペーソス、好色と淫蕩にみちみちた、秀逸な短編を満載。
立ち読みフロア
 むかし、黒人奴隷にぞっこん惚れこんだひとりの王女がありました。姫は、この黒ん坊に処女を犯されてからというもの、濡事(ぬれごと)にすっかり夢中になって、ひとときのまも交合せずにはおれませんでした。そこで、侍女のひとりに事情をうち明けてかこちますと、侍女は狒々(ひひ)ほど存分につきこんだり、はめたりしてくれるものはないと教えました。
 ところで、たまたまある日のこと、猿使いが一匹の大猿をつれて、格子窓の下を通りかかったので、姫は面紗(かおあみ)をとって、猿のほうに顔をむけ、目で合図を送りました。すると、猿は綱も鎖もひきちぎって、姫のもとへかけ登ってきました。姫はひと部屋に猿といっしょにかくれて、明けても暮れても、飲んだり食べたり、つがったりしながら暮らしました。父王はその悪業を伝え聞いて、ひと思いに姫を殺してしまおうと思いました。が、姫はいちはやく父の心底をかぎつけました。そこで、白人奴隷に身をやつして、金銀財宝をしこたま騾馬(らば)に積んで、馬にうちまたがると、くだんの猿を伴ってカイロへ逃れ、郊外はスエズの砂漠の境にある民家に居を定めたのでございます。
 さて、姫は毎日肉屋の若者の手から肉を買うならいで、いつもきまって昼すぎに店へやってきました。肉屋は姫の顔色がひどく黄ばんで、やつれているのを見て、心ひそかに思いました。「この奴隷にはきっとなにか秘密があるに違いない」そこで、(と肉屋は語りました)ある日、その奴隷がいつものように店にやってくると、てまえはこっそりあとを追い、相手に気づかれぬようにあちこちついてまわりました。そのうち、相手は砂漠の縁(へり)にある住いに着いて、中へはいりました。てまえが隙間から中の様子をうかがっているとも知らず、奴隷は家へはいると、すぐ火をおこして、肉を料理し、腹いっぱい食べました。残りの料理をかたわらの狒々(ひひ)に与えると、狒々も同じようにたんまり食べました。それから、奴隷は着物をぬいで、このうえなく華やかな女の衣装を身にまとったので、てまえは初めて相手が女だと気がついたのでございます。それから、女は酒を出して自分も飲み、猿にも飲ませました。すると、猿めは立てつづけに十回ほども一物をぬきさししたので、女は悶絶(もんぜつ)してしまいました。猿はそのまま女の体に小蒲団をひっかけて、自分の席にもどりました。そのとき、てまえは部屋のまん中へおどりこんでいきました。猿めはてまえに気がつくと、いまにもてまえの五体をずたずたにひき裂かんばかりの形相(ぎょうそう)をしました。が、こちらはやにわに庖丁をぬいて、ずぶりとお腹につきさしたので、たちまち臓物がとび出してしまいました。
 このもの音に目を覚ました若い女はびっくり仰天して、体をぶるぶるふるわせておりました。そして、無残な猿の死にざまを見ると、魂が体からとび去らんばかりの悲鳴をあげて、その場にばったり、気を失って倒れました。やがて、正気に返った女は「どうしてまたこんなまねをなさいましたの? どうか後生ですから、わたしにも猿のあとを追わせてくださいませ!」と言いました。けれども、てまえはしばらくのあいだ、なだめすかしたうえ、猿の代わりになって、うんとこさよがらせてやろうと約束しましたので、女の悲しみも和らぎました。てまえはさっそくこの女を女房に迎えましたが、いざ約束をはたす段になると、不首尾に終わって、息もつづかず、とてもそんな激しい業には耐えきれません。そこで、てまえはある老婆に事情を訴え、女のとてつもない要求ぶりを話しました。すると、老婆はうまくいくように取り計らってあげようと約束して、「まじり気のない酢がいっぱいはいった鍋とね、〈傷草〉という《ひかげみず》を百匁ばかりもってきなさい」と言います。てまえが言いつけられた品を持っていくと、老婆は酢といっしょに鍋の中にひかげみず入れ、火にかけてぐらぐら煮立てました。それから、てまえに女と交わるように申しますので、てまえは相手が気絶するまで交合を重ねました。老婆はぐったりとなった女の体を抱きあげると、玉門を鍋の口にあてがいましたので、湯気が裂けめにはいり、やがて、なにやらころりと落ちてきました。よく調べてみれば、なんとそれは二匹の小さな虫で、一匹は黒く、一匹は黄色い色をしているではありませんか。老婆は申しました。「この黒いほうは、黒ん坊にはめられてできたのさ。黄色いほうは狒々とやったせいだよ」
 ところで、女房は息を吹き返すと、てまえとともども楽しく、おもしろく日々を送り、昔のようにうるさくせがむようなことはありませんでした。それと申しますのも、アラーのおかげで、淫乱の虫がとり除かれたからでございます。このありさまを見て、てまえは驚いて……
 ……シャーラザッドは夜がしらんできたのを知って、許された物語をやめた。

……《王女と猿》より


購入手続きへ


*** タイトル一覧へ *** ホームページへ ***