「お気に召すまま」

シェイクスピア作/大山敏子訳

エキスパンドブック 448KB
ドットブック版 118KB/テキストファイル 73KB

400円

 アーデンの森を舞台に軽妙洒脱に取り交わされる四組の男女の恋のかけひき。恋人同士の追いかけごっこも、権力争いも、兄弟の憎しみも、ついにはすべて解決して一大饗宴となって終わるファンタジック喜劇。ときおり挿入されるピリッと辛みのきいたせりふや、どたばたやりとりのおもしろさによって知られる、シェイクスピア喜劇の代表作。
立ち読みフロア
第一幕

第一場 オリヴァの邸の庭

〔オーランドとアダム登場〕
【オーランド】 ぼくはおぼえているが、アダム、こんな風に遺言でぼくの分け前が決められたんだ、たった千クラウンぽっちだが。それに、お前も言ってるように、兄貴にはおやじの祝福とともに、ぼくの面倒を見るようにと命じてあったんだが、その辺りからぼくの不幸ははじまったわけさ。ジェイクィーズ兄さんは大学までやってもらい、勉強のほうもなかなか成績がいいとのもっぱらの評判だ。ぼくはといえば、家におかれて田舎育ちのままだ。いや、もっと正しい言い方をすれば、育てもしないでただ家においてあるだけなのさ。こんなやり方、牛を飼っているのとちっとも変わらないような育て方が、ぼくのような生まれの紳士にふさわしいとお前は思うかね? 兄貴の馬のほうがもっと立派に育てられている、食物も立派に与えられているし、訓練も受けているし、そのために高い給料で騎手もやとってある。だが、ぼくは弟だというのに、兄貴の家においてもらっているというだけで何もしてもらってはいない。糞溜(くそだめ)をあさっている獣だって、ぼくよりはもっと兄貴に恩恵をこうむっているんだ。このように何一つぼくに与えてくれないばかりか、兄貴のやり方は、自然がぼくに与えてくれたものまで取り上げてしまうようだ。兄貴はぼくを下男たちと一緒に生活させて、弟らしくも扱ってはくれない。そして、教育も受けさせないで、ぼくの生まれのよさをこわそうとしているんだ。アダム、これがとても悲しいんだ。そしてぼくの内にひそんでいるおやじの魂が、こんな奴隷みたいな立場に反抗しようとしている。まだ今は、どうすればこんな境遇から抜け出せるかわからないが、もうぼくはこれ以上我慢できない。
〔オリヴァ登場〕
【アダム】 あそこにわたしのご主人さま、あなたのお兄様が来られました。
【オーランド】 離れていてくれ、アダム、お前は兄さんがどんなにぼくをいじめるか聞けるだろうよ。
〔アダム、すこし離れた所に行く〕
【オリヴァ】 おや、こんなところで何をしてるんだ。
【オーランド】 何もしていない。何もすることは教わっていないもの。
【オリヴァ】 じゃ何をこわしているんだ!
【オーランド】 まったくの所、兄さん、ぼくは、ぶらぶらして、このとるに足らない弟のぼくは、神さまがお創りになったものを兄さんがこわす手伝いをしているのさ。
【オリヴァ】 おい、何かもう少しましなことをして、引っこんでろ!
【オーランド】 兄さんの豚でも飼って、豚と一緒にもみがらでも食っていようか? こんなみじめな目に会わなくちゃならないのは、どんなでたらめな無駄づかいをしたためなのかな?
【オリヴァ】 おい、ここはどこだかわかっているのか!
【オーランド】 わかってるとも、兄さん。兄さんの家の庭だよ。
【オリヴァ】 だれの前にいるかわかってるのか!
【オーランド】 わかってるとも。ぼくの前にいる人がぼくのことをわかってるよりずっとよくわかってるさ。あんたはぼくの一番上の兄さんだ。だから、お互い立派な家柄の生まれなんだから、兄さんもぼくを正しく認めてくれよ。どこの国だって礼儀として、最初に生まれたから、目上だってことは認めているさ。だけど、どこの国の伝統から考えたって、長兄と弟の間に二十人も兄弟がいたって、末弟からその血統を奪いとったりはしないんだ。ぼくだって兄さんと同じにお父さんの子なんだ。もっとも兄さんのほうがさきに生まれたんだから、お父さんの尊敬される立派な性質はよけい持っているということはわかるけど。
【オリヴァ】 (彼をなぐろうとしながら)何だと!この野郎!
【オーランド】 (のどぶえをつかんで)まあ、まあ、兄さん、こういうことにかけちゃ、ぼくのほうが上だ!
【オリヴァ】 おれに手を出す気か? このやくざ野郎め!
(第一幕第二場より)


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