「ブラウン神父の純智」(1・2)

チェスタートン/橋本福夫訳

(1)ドットブック版 119KB/テキストファイル 124KB

(2)ドットブック版 113KB/テキストファイル 121KB

各300円

ホームズ物とは一味ちがう、短編ミステリーの名手チェスタートンのブラウン神父物第一巻。黒い大きな帽子とこうもり傘、丸顔でずんぐりした体型の神父が、どことなくユーモラスな雰囲気を漂わせながら意表をつく推理を披露する。

(1)収録作品…「青い十字架」「密閉された庭」「奇妙な足音」「飛ぶ星」「見えない人間」「イズラエル・ガウの厳正さ」の6編。

(2)収録作品…「間違った形」「サラディン公の罪」「神様の鉄槌(てっつい)」「アポロの眼」「折れた剣の看板」「三つの凶器」の6編。

G・K・チェスタートン(1874〜1936)ロンドンのケンジントン生まれ。G・Kは、ギルバート・キース。セントポール校を卒業後、画家を志し、美術学校に入るが挫折し、ジャーナリズム・文学を志すようになる。自由主義派の論客としてイギリスの政治・社会を糾弾・諷刺する一方、作家としても、「ブラウン神父もの」を著して評判をとった。江戸川乱歩は「チェスタートンのトリック創案率は探偵小説随一」と賞賛している。

立ち読みフロア
「真正(しんせい)漁師十二人会」という、例の会員を厳選するので有名なクラブの会員が、年に一回の定例晩餐(ばんさん)会に出席するためにヴァーノン・ホテルに入ってきた時に、もし諸君がお逢いになって、オーバーを脱ぐところをごらんになったとすると、このクラブの会員は黒ではなくて緑色のイヴニングを着ていることに気がつかれるに相違ない。そして諸君が(もしかして、こういうお歴々に話しかけるなどという、星にでも挑戦するほどの向こう見ずさを発揮されて)、そのわけをお訊(たず)ねになったとすると、おそらくその会員は、ウエーターと間違えられるおそれがあるからだと答えるに違いない。そこで諸君はペシャンとまいってひきさがる、ということになりそうだ。だが、そこでひきさがったのでは、未解決なままの不可思議な事件と、語るに値いする一つの物語とを、聞きもらされることになる。
  かりに諸君が(ついでにもうすこし有りそうにもない推測を続けさせてもらうとして)ブラウン神父という、温和で仕事熱心な、小柄な司祭にお逢いになり、彼の生涯のうちで何よりも不思議な幸運に恵まれたと思われる出来事は何だったかとお訊きになったとすると、おそらく彼はこう答えるに違いない。
  いろんな点から見て、自分の一番成功したのはヴァーノン・ホテルでの事件であった。というのは、あのホテルでは、廊下の足音に耳を澄ましていただけで犯罪を未然に防いだだけでなく、一人の人間の魂を救ったことにもなったようだから、と。
  おそらく神父はあの時の自分の奇抜なすばらしい推理力を多少は自慢にしているだろうから、その時の話をもち出してくれないともかぎらない。だが、諸君が「真正漁師十二人会」の会員に出会われるほど、上流の社交界にも出入りされることは、まずちょっとありそうにもないことだし、ブラウン神父に出会われるほど、零落(れいらく)して、貧民窟(ひんみんくつ)や犯罪者仲間に落ちこまれることも、これまたちょっとなさそうだから、この話は、わたしでもがお聞かせしないかぎりは、諸君のお耳には入らずじまいになるおそれがある。

……《奇妙な足音》より


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