「ブラウン神父の知恵」(1・2)

チェスタートン/橋口稔訳

(1)ドットブック版 95KB/テキストファイル 100KB

(2)ドットブック版 91KB/テキストファイル 95KB

各300円

短編ミステリーの名手チェスタートンのブラウン神父物第2巻。奇抜なトリック、ユーモアと逆説にあふれた好読み物。

(1)収録作品…「消えうせたミスタ・グラス」「盗賊の楽園」「ヒルシュ博士の決闘」「通路の人影」「器械の間違い」「シーザーの顔」の6編を収録。

(2)収録作品…「紫色の鬘」「ペンドラゴンの死」「ゴングの神」「クレイ大佐のサラダ」「ジョン・ブールノアのおかした奇妙な罪」「ブラウン神父のお伽噺」の6編と訳者による解説を収録。

立ち読みフロア
 日暮れどきのテンプル公園(ガーデンズ)に、フランボウと友人ブラウン神父の姿が見られた。法律に縁のある場所柄からか、それとも何かのきっかけから話がそちらへ行ってしまったのか、二人は法律問題について話しあっていた。反対尋問をどこまで許すかという問題から始まって、ローマや中世の拷問、フランスの予審判事、アメリカの拷問(サード・ディグリー)と、話はとりとめなくつづけられた。
 「さいきんいろいろ話題になっている精神測定について、ぼくはいま本を読んでるところなんだけど」とフランボウが言った。「アメリカでは特に話題になってるようだ。知っているでしょう。手首に脈拍計をあてがっておいて、単語を聞かせ、それにたいする心臓の反応を見るやつですよ。この方法をどう思います?」
 「なかなか面白いと思うよ。ほら、中世紀につかわれたっていう、犯人がさわると死体から血が流れだすという方法のことを思いだすな。あれだって、なかなか面白い」
 「じゃあ、どっちの方法もおんなじように有益だと言われるんですか?」
 「いや、どっちもおんなじように無駄だと言うんだよ。死んだ人間だろうと生きている人間だろうと、速くにせよゆっくりにせよ、血が流れるのには、人間の知恵の思いおよばぬ無数の理由があるんだ。血だって、ずいぶんおかしな流れ方をしなきゃならんこともあろうさ。マッターホルンを流れてのぼらにゃならんてなこともあろうさ。だからってそれがこのわたしの血が流れだす前兆だなんて、当のわたしにもわかるわけじゃない」
 「でも精神測定は、アメリカの有名な科学者にも認められてる方法なんですよ」
 「科学者というのは、なんてセンチメンタルな人間なんだろう! なかでもアメリカの科学者はセンチメンタルらしいな! 心臓の鼓動を証拠につかおうなんで、ヤンキーでなければ、どこの誰が考える? かれらは、女が顔をあかくすりゃ、おれに惚れてるんだと思いこむ男にもまけぬセンチメンタリストだ。血液の循環(じゅんかん)によって試すなんて、ハーヴェイ先生の発見したやつで、古くさいや」
 「でも、かなりはっきり結果が針にあらわれるんですよ」
 「ステッキがはっきり方向をあらわすってのが、くせものなんだ。どう思う? だって、ステッキの反対の端は、いつだって反対の方向をあらわしてるんだからね。問題は、ステッキの正しいほうの端をつかんでるかどうかだ。わたしは前に、その方法がつかわれるのを見たことがあるんだ。以後いっさい信用せんことにしている」
  こうしてブラウン神父は、その体験を話しはじめた。

……《器械の間違い》より


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