「ブラウン神父の懐疑」(1・2)

チェスタートン/橋口稔訳

(1)ドットブック版 84KB/テキストファイル 84KB

(2)ドットブック版 86KB/テキストファイル 89KB

各300円

短編ミステリーの名手チェスタートンが第一次世界大戦をはさんで十年あまりの休止の後に著わしたブラウン神父物第3巻。

(1)収録作品…「ブラウン神父の復活」「天の矢」「犬のお告げ」「ムーン・クレセントの奇蹟」の名作4編を収録。

(2)収録作品…「金の十字架の呪い」「翼のついた短剣」「ダーナウェイ家の宿命」「ギデオン・ワイズの亡霊」の4編のほか、訳者による解説を収録。奇抜なトリック、ユーモアと逆説は健在!

立ち読みフロア
 アメリカの富豪の死体が発見されるところから始まる探偵小説が百編もあるということは、恐ろしいことである。富豪が殺されることが不幸な事件とみなされるのはどういう理由からであろうか。それはともかく有難いことに、この物語もまた一人の富豪の死から始まらねばならない。いや、ある意味では、三人の富豪の死から始まらねばならないのだ。なんと贅沢な(アンバラ・ド・リシェス)! と言う人もあるかも知れない。が、偶然によってか必然によってか、三度にわたって同じような犯罪が起こったればこそ、この事件は月並なほかの犯罪事件と類を異にすることになり、めったにない難問題と考えられるにいたったのである。
  世人の口にするところによれば、三人の富豪はひじょうに高価な、歴史的にも価値のあるさる骨董(こっとう)品を手にいれたため、それに伝わる呪いの犠牲に、執念の犠牲になったのだということであった。それは、宝石をちりばめた一種の聖なる杯で、通常「コプトの杯」と呼ばれているものだった。どのようにして作られたのかは不明であったが、宗教上の用途をもつものであろうとは見当をつけられていた。したがって、それを手にいれた者を死がおそうのは、狂信的な東方のキリスト教徒のしわざである、と考えるものもいた。聖なる杯が物質主義者の手に渡ったことを呪ってのしわざだというのである。
  はたして謎の犯人がそのような狂信者であったかどうかはわからない。ともあれジャーナリズムとゴシップの世界では、かれはぶきみなセンセイショナルな話題の人物になりおおせていた。その名もない存在には、名前まで、ニックネームまでついていた。もっともここに物語られるのは、三人目の犠牲者のくだりだけである。それというのも、本短篇集の主人公であるブラウンとやらいう神父が登場するのは、この第三の事件になってからなのだから。

……《天の矢》より


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