「ブラウン神父の秘密」(1・2)

チェスタートン/橋口稔訳

(1)ドットブック版 73KB/テキストファイル 75KB

(2)ドットブック版 73KB/テキストファイル 76KB

各300円

チェスタートンによるブラウン神父物ミステリー第4巻。冒頭の「ブラウン神父の秘密」と末尾の「フランボウの秘密」によって神父の探偵方法について語り、その実例を8編紹介するという新しい趣向の傑作短編集。

(1)収録作品…「ブラウン神父の秘密」「判事の鏡」「顎ひげを二つもつ男」「飛ぶ金魚の歌」「俳優とアリバイ」の5編を収録。

(2)収録作品…「ヴォードリーの失踪」「世の中で一番重い罪」「メルーの赤い月」「マーン城の喪主」「フランボウの秘密」の5編を収録。奇抜なトリック、ユーモアと逆説は健在!

立ち読みフロア
  この話は、さるクラブで、ブラウン神父と犯罪学の権威クレイク教授が、ともに殺人と泥棒に対して同じ無害な趣味をもつ者として紹介されたおり、晩餐(ばんさん)のあとで神父の口から教授に語られたものである。もっともブラウン神父の語ったのは、事件におけるかれ自身の役割をできるだけ控えめにしたものだったから、ここではもっと片寄らぬものに直してある。ことは、教授が科学の側に立ち、司祭が懐疑主義の立場に立って、冗談まじりにはげしく渡り合ったことから始まった。
 「それではあなたは、」と教授はとがめるように言った。「犯罪学が科学であることをおみとめにならないのですか?」
 「さよう、あなたは聖人学(ハギオロジー)が科学であることをおみとめになりますかな?」
 「何がですって?」
 「いや、妖婆(ハッグ)の学問ではありません。魔女を焼き殺すこととも関係ありません」司祭はにこにこしながら言った。「聖人や聖なるものの学問です。中世の暗黒時代は善人を研究する科学をつくろうとした。それなのに、人道的な進歩の時代である現代は、悪人を研究する科学にばかり興味をもっている。わたしは、人間というものは、どんな人でも、聖人になりうると考えているのに、あなたはまた、どんな人でも殺人犯になりうると考えておられるのではありませんか」
 「殺人犯人をきちんと分類しうると考えているのですよ。説明すると長くなって退屈されるでしょうが、かなり行きとどいたものです。
 まず第一に、すべての殺人を、合理的なものと非合理的なものに分けることができます。後者のほうが数が少いので、こちらからまいりますと、殺人マニア、すなわち人殺しそれ自体を抽象的に好む者がおります。非合理的な敵意と呼ぶべきものもありますが、これは殺人にまで行かないことが多い。つぎに、ちゃんとした動機のあるものをとりあげます。なかには、過去にとらわれたロマンティックなものだという意味で、あまり合理的でないものもあります。復讐のための復讐というのは、希望を含まぬ行為です。恋する者は、自分がとって代われるわけでもないのに、恋敵を殺すことがある。反逆者は勝利を収めたのちに暴君を殺す。しかし、復讐の場合でも、合理的な期待に裏づけられたもののほうが多い。これは、希望を含む殺人です。合理的殺人の大部分がこれにはいるのでして、これは打算的な犯罪と呼ぶこともできます。
これをまた大きく二つに分けることができる。一つは、他人の持物を横領、ないし相続によって手にいれようとする殺人。もう一つは、他人のある行為を阻止しようとするもので、脅喝(きょうかつ)者や政敵を殺す場合とか、配偶者の存在がなにかの邪魔になるからこれをとり除くといった、やや消極的な場合もあります。
 この分類はじゅうぶん考えぬかれたものですから、適用をあやまらなければ、すべての殺人に当てはまると思います。でも、こんな話は面白くない。退屈なさいましたか」

……《顎(あご)ひげを二つもつ男》


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