「黄色い部屋の秘密」

ガストン・ルルー/木村庄三郎訳

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密室犯罪の心理と犯人消失のトリックを創始して、その後の「密室もの」の原点となった有名な作品。若き新聞記者ルールタビーユの爽快な活躍とあいまって、その重厚なつくりは今なお、古典ミステリの代表作としての魅力を失っていない。

ガストン・ルルー(1868〜1927) ルブランと並ぶ、フランスを代表するミステリ作家。パリ生まれ。事件記者的なジャーナリストとして世界を股に活躍したあと、1900年代初めから小説に手を染め、「黄色い部屋の秘密」(1907)で一躍有名になった。この作に登場する若き新聞記者ルールタビーユを主人公にしたミステリ・シリーズは、フランスではルパンものと並ぶほど有名である。

立ち読みフロア


 私は今、ジョゼフ・ルールタビーユの驚くべき冒険を語りはじめるにあたって、一種の感慨を禁じ得ない。この事件は、過去十五年間における最も好奇心をそそる犯罪事件であるが、当のルールタビーユが今日まで頑強に反対していたので、私はそれを公表することを、ほとんど諦《あき》らめていた。そればかりではない、私は世人が、この『黄色い部屋』の事件といわれる、かずかずの神秘で残虐で奇想天外な劇にみちた異常な事件の『全貌《ぜんぼう》』を、永久に知る機会がないだろうとさえ思っていた。ところが最近になって、あの有名なスタンジェルソン氏がレジオン・ドヌール最高勲章を授与された際、ある夕刊新聞が、無知によるのか、それとも厚顔な暴露趣味によるのか知らないが、愚劣な記事をのせて、あの恐ろしい事件を、ふたたび世人の記憶によみがえらせた。もしそういうことさえなかったら、ルールタビーユ自身いっていたように、彼は、この事件が永久に忘れられてしまうことを願っていたのである。
 ところで、『黄色い部屋事件』である! 十五年前、あらゆる新聞が、あれほどに書きたてた事件を、だれがいったい今日まで、記憶の底にとどめていただろうか? パリでは、すべてが、たちまち忘れ去られる。ネイヴ事件さえ、メナルド少年惨死事件さえ、世人は忘れてしまったのではなかろうか? しかも当時、この二つの公判に対する世人の関心は非常なもので、ちょうどそのころ起こった政変にさえ、まったく気がつかなかったくらいであった。ところがネイヴ事件に先だつこと数年の『黄色い部屋』の公判は、それどころではなかった。それは途方もない反響を呼んだ。全世界が数か月のあいだ、あげてこの不可解な問題に──私の知るかぎりでは、かつて警察当局の手腕と裁判官たちの良識との前に提出された、最も不可解な問題に熱中した。
 だれでも彼でも、この難問を解こうと夢中になった。それはいってみれば、ふるいヨーロッパと若いアメリカとを、ともに熱狂させた興味津々《しんしん》たる謎解《なぞと》きであった。謎解き、たしかにそういっていい。というのは、実際のところ──断っておくが、私は特別な資料によって事実に新しい光りをあてながら事実そのものを書くだけで、『そこになんら作者としてのうぬぼれはないのであるから』、あえてこう言うのであるが――この『黄色い部屋の自然の謎』は、『その奇怪さにおいて』、「モルグ街の殺人」の作者の作品とくらべても、あるいはエドガー・ポーおよびコナン・ドイルの亜流の、鬼面人をおどかすような作品とくらべても、おそらくひけ《ヽヽ》はとらないと思われるからである。
 だれ一人として発見することのできなかったもの、それを青二才のジョゼフ・ルールタビーユが――当時わずかに十八歳、ある大新聞の下廻りの探訪記者にすぎなかった彼が、発見したのである。が、彼は、事件の鍵をにぎって重罪裁判所にのぞんだ際、真相のすべては語らなかった。『解きがたい謎を解くため』と、罪のない一人の男を釈放させるためとに必要なことしか公表しなかった。しかし彼が沈黙を守らなければならなかった理由は、いまや消えうせた。というよりも、彼は、まさに語らなければ『ならないのだ』。こうして読者は、これからいよいよ事件の全貌を知られることになるだろう。だが前おきはこのくらいにして、私はまずグランディエ屋敷の惨劇がおこった翌日、世人の目を驚かした『黄色い部屋』事件の新聞記事を、ここに紹介することにしよう。
 一八九二年十月二十五日、ル・マタン紙の最終版に次のような記事がのっていた。
「サント・ジュヌヴィエーヴの森のはずれ、エピネー・シュル・オルジュの上手《かみて》のグランディエ屋敷、すなわちスタンジェルソン教授邸で、恐ろしい犯罪が行なわれた。昨夜、教授が実験室において研究中、何者かが隣室に眠っていたスタンジェルソン嬢を殺害しようとした。医師は彼女の生命を保証していない」
 この記事が、パリの人々の心に、どんな衝撃を与えたかは容易に想像することができる。なにしろ当時、すでにスタンジェルソン教授と令嬢との研究は、学会の非常な注目をあびていたからである。それは後年、キュリー夫妻によるラジウム発見の端緒《たんしょ》となった、レントゲン写真に関する最初の研究であった。しかもスタンジェルソン教授は近くアカデミーで『物質解離論』という新しい理論について画期的な研究発表をすることになっていて、人々はそれに非常な期待を寄せていた。この理論は、多年、『物質保存の原理』に安住していた全科学界を根底から揺るがすべきものであった。
 翌日の朝刊各紙は、この事件の報道で埋《う》ずめつくされた。なかでもル・マタン紙は、『超自然な犯罪』という見出しで、次のような記事を掲載していた。
「グランディエ屋敷の犯罪について、ようやく入手した情報は左の如《ごと》きものである」と、ル・マタン紙の匿名《とくめい》の記者は書いている。「スタンジェルソン教授がはげしい悲嘆におちいっているためと、かつまた被害者の口から何らの聞き込みも得られないため、われわれや警察当局の捜査は困難をきわめ、現在のところ、『黄色い部屋』の中で起こったことについては、スタンジェルソン嬢が寝巻きのまま床《ゆか》の上に倒れてうめいていたところを発見されたという事実以外には、何もわかっていない。が、記者はスタンジェルソン家の老僕、通称ジャック爺さんなる人物と会見することができた。爺さんは教授と同時に『黄色い部屋』にはいったのである。この部屋は実験室に隣接し、実験室とともに、屋敷から約三百メートルはなれた庭の奥に建てられた離れの中にある。
『事件が起こったのは、夜なかの零時半でした──と、この実直な(?)老人は記者に語った──私は、だんなさまが、まだ研究をつづけておいでになったので、実験室に残っておりました。そして器具を整理したり掃除したりして、だんなさまがお屋敷の方へお帰りになったら、私も寝に行こうと思っていました。マチルドお嬢さまは、十二時までお父さまとごいっしょに研究をしておいでになりましたが、実験室の鳩時計が十二時を打つと同時に立ちあがって、お父さまに、おやすみなさいとおっしゃって、接吻なさいました。それから私にも、「おやすみ、ジャック爺や」とおっしゃって、「黄色い部屋」のドアを押しておはいりになりました。ところがドアの鍵をしめ、掛け金もおかけになる音が聞こえましたので、私は笑いながら「お嬢さまは鍵を二重におかけになりましたよ。よほどばけ猫《ヽヽヽ》がおこわいとみえますな」と申しました。けれども、だんなさまは研究に熱中しておられ、私の申すことなど、お耳にはいらなかったようでした。すると私の言葉にこたえるように、家の外で、いやらしい猫の鳴き声が聞こえました。それこそあの「ばけ猫」の声だとわかり、私は思わずゾッとしました。やつは今夜もまた、われわれの安眠をさまたげるつもりだな、と思いました。と申しますのは、この庭の奥の離れにたった一人でお嬢さまをお置きするわけにはまいりませんので、十月いっぱいは私も「黄色い部屋」の真上にある屋根裏部屋に寝起きすることにしていたからでございます。時候のよい季節を、離れでお暮らしになるのが、お嬢さまのお好みでして、それは、お屋敷より離れのほうが陽気だからでございましょう。この離れが建てられてから、もう四年になりますが、お嬢さまは毎年春になると、ここでお暮らしになります。そして冬になると、またお屋敷へもどられますが、それは「黄色い部屋」には暖炉がないからでございます。
 そんなわけで実験室の中には、だんなさまと私とだけが残りました。二人とも物音一つたてませんでした。だんなさまは机に向かっておいでになり、私は自分の仕事が終ったので、椅子に腰かけて、だんなさまの方を見ながら、「なんという偉い方だろう! なんという聡明《そうめい》な、学識の高い方だろう!」と考えていましたが、この物音一つたてなかったということが重要なのでございます。と申しますのは、「それだからこそ犯人は、私たちがもうそこにいないものと思ったのでございましょう」鳩時計が零時半を打ったとき、突然、「黄色い部屋」で物すごい悲鳴がおこりました。「人殺し! 人殺し! 助けて!」と叫ぶお嬢さまの声でした。つづいてピストルの音がとどろき、それから格闘でもはじまったかのように、テーブルや家具がひっくり返ったり床《ゆか》に投げ出されたりする大きな音がして、またお嬢さまの声で、「人殺し!……助けて!……パパ! パパ!」と叫ぶのが聞こえました。
 私たちがどんなに驚いてとびあがり、どんなにあわててドアのところにかけつけたか、おわかりになりましょう。が、ドアはいくら揺すぶっても、びくともいたしませんでした。さっきも申しあげたとおり、お嬢さまが鍵と掛け金とで「中から」厳重に戸じまりをなさったからです。だんなさまは気も狂わんばかりになって、お嬢さまの「助けて!……助けて!」という悲鳴の聞こえるドアに向かって、ものすごい勢いでぶつかっておいでになりました。そして、はげしい怒りと、どうしてよいかわからぬ焦燥《しょうそう》と絶望のあまり、むせび泣いていらっしゃいました。
 このとき、私はふと思いつきました。「犯人は窓からはいったのかもしれません。窓のところへ行ってみましょう!」と叫ぶなり、私は離れを飛び出し、気ちがいのように走りました。
 ところが、あいにくなことに「黄色い部屋」の窓は野原の方に向いていて、そして庭の塀が離れに接続しているので、直接窓のところへは行けないようになっているのでございます。そこへ行くには、どうしても一度、お屋敷の外へ出なければなりません。私は庭の門の方へ走りました。途中で、門番のベルニエ夫婦に出会いましたが、彼らはピストルの音と私たちの叫び声とを聞きつけて、やってきたのです。私は彼らに急いでわけを話し、門番にはだんなさまのところへかけつけるように言い、おかみさんには私といっしょに行って庭の門をあけてくれるように頼みました。それから五分後には、おかみさんと私とは、「黄色い部屋」の窓の外に立っていました。月の光が明かるいので、だれも窓に手をふれた者がないことはすぐにわかりました。鉄格子がどうもなっていないばかりか、鉄格子の向こうのよろい戸も、ちゃんとしまっていました。それは前の晩、私がいつも用事が多く疲れているのをご存じのお嬢さまが、自分でしめるからいいとおっしゃって下さったのを、それでも私がいつものようにしめた、そのままになっていました。よく注意して「内側から」しっかり掛け金をかけたのですが、そのままになっていました。ですから犯人は、そこからはいることも出ることもできなかったわけですが、同様に私も、そこから「黄色い部屋」へはいることはできませんでした。
 いやはや! こんな、わけのわからないことはありません。部屋のドアは「内側から」鍵がかけてあるし、たった一つの窓のよろい戸も「内側から」しめてあって、その外側の鉄格子にも変りはなく、そしてこの鉄格子は隙間《すきま》から腕を突っ込むこともできないようになっています。……お嬢さまは、あいかわらず助けをもとめていらっしゃる!……いいえ、そのときはもう、お声は聞こえませんでしたが。……もしかすると殺されておしまいになったのではなかろうか?……しかし、まだ離れの奥で、だんなさまがドアを揺すっていらっしゃる音が聞こえていました。
 門番のおかみさんと私とは、それからまた走って離れにもどって来ました。ドアは、だんなさまとベルニエとの猛烈な体当りにも、依然としてびくともしませんでしたが、私たちが夢中になって力をあわせると、やっと、あきました。と、そのとき、私たちが見たものは何だったでしょうか! ここで申しあげておかなければならないことは、門番のおかみさんが私たちのうしろに立って、実験室のランプを手に高く持ち、その明かるい光りで部屋じゅうを、くまなく照らし出していてくれたことです。
 もうひとつ、おことわりしておかなければならないのは、「黄色い部屋」がとても小さいということです。お嬢さまはそこへ、かなり大きな鉄の寝台と、小さな机、ナイトテーブル、化粧台、それから椅子《いす》を二つ備えつけておいでになりました。ですから、門番のおかみさんの手にしている大きなランプの光りで、私たちはひと目ですべてを見てとることができました。お嬢さまは寝巻きのまま、部屋じゅうの物がめちゃくちゃに散乱している床《ゆか》に倒れておいでになりました。机や椅子はひっくり返って、そこで命がけの「格闘」が行われたことを示していました。お嬢さまは、たしかに寝台から引きずりおろされたにちがいありません。血まみれになって、首すじには恐ろしい爪あとがあり──肉がほとんどえぐり取られていました──それに右のこめかみに穴があいて、そこから血がドクドクと流れ出して、床の上に小さな池となっていました。だんなさまは、そんな姿のお嬢さまをごらんになると、聞くもおいたわしい絶望的な叫び声をおあげになって、お嬢さまのところにおかけ寄りになりました。そしてお嬢さまの息がまだあるのをたしかめると、もうお嬢さまのことしかお考えになりませんでした。私たちのほうは、お嬢さまを殺そうとした憎むべき犯人を部屋じゅうさがしました。まったくのところ私たちは、もし犯人を見つけたら、どんなひどい目にあわせたかもしれません。ところが、どうでしょう、犯人の影も形もありませんでした。……実に不思議千万なことです。寝台の下にも、家具のかげにも、だれもいませんでした。ほんとにだれも! 私たちは、ただ犯人の残した痕跡《こんせき》だけしか発見することができませんでした。壁やドアにいくつも残っている、男の大きな血だらけな手の跡、イニシァルのない、血で真赤にそまった大型のハンケチ、古ぼけたベレー帽、そして床《ゆか》の上には、いまついたばかりの点々とした男の足跡。そこを歩いた男は大きな足をしていて、そして足跡には黒っぽい煤《すす》のようなものがついていました。いったい男は、どこからはいって来たのでしょう?
 そして、どこから消え失せたのでしょう? 「黄色い部屋には暖炉がないことを、お忘れにならないように願います」。入口からは逃げられません。入口はとても狭いし、そこには門番のおかみさんがランプを持って立っていたのです。一方、門番と私とは、あの小さな四角い部屋のなかをさがし廻っていたのですから、隠れることなどできるはずがありませんし、事実だれもいませんでした。はいるときに私たちがぶちこわしたドアは、壁に倒れかかっていますが、そのうしろに隠れることもできません。もちろん私たちは、そこもたしかめてみました。よろい戸がしっかりしまっていて、鉄格子にも異状のない窓から、逃げることなど、とうてい不可能です。では、どうして?……私は悪魔のしわざかも知れないと思いました。
 ところが、どうしたことか、床《ゆか》の上に「私のピストル」が落ちていました。そうです、たしかに私のピストルなのです。……この事実が、私の頭を冷静にしてくれました。悪魔なら、お嬢さまを殺すために私のピストルなど盗む必要はなかったでしょう。ここに押し入ったやつは、まず屋根裏部屋にあがって、引き出しから私のピストルを盗み出し、それをこの悪だくみに使ったのです。薬莢《やっきょう》を調べてみると、犯人はピストルを二発うっていました。これは、とんでもない災難でしたが、幸運にも、事件の起こったとき、だんなさまは実験室においでになって、私がそこにいることをご自分の目でごらんになっていたのです。でなかったら、このピストルのために私はどんなことになっていたかわかりません。今ごろは監獄に入れられていたでしょう。裁判所が人間ひとりを断頭台に送るには、この程度の証拠さえあれば十分なんでしょうから』」
 ル・マタン紙の記者は、この会見記につづいて、次のように記していた。
「記者は、ジャック爺さんが『黄色い部屋』の犯罪について、彼の知っているかぎりのことを話すままに聞き取って、そっくりここに再現したが、ただ、しばしば出る愁嘆《しゅうたん》の言葉だけは読者のために割愛した。わかったよ、ジャック爺さん! きみが主人たちを愛してることはよくわかった! きみはそれが知ってもらいたさに、そんなに愁嘆をくりかえしたんだね。とくに話がピストルが発見された段になってからは、ひどかった。しかしそれはきみの権利だし、それについては、われわれは何もいうつもりはない! われわれは、ジャック爺さんに──ジャック・ルイ・ムーチエに、さらに幾つかの質問をしたかったが、ちょうどそこへ、屋敷の大広間で取り調べをつづけていた予審判事から呼び出しが来たので、彼は去って行った。屋敷のなかにはいることは、われわれには許されていなかった。『樫《かし》の林』は、数人の警官によって大きく取り巻かれ、警官たちは、離れの方につづく、そしてそれはおそらく犯人の発見に役立つであろうすべての足跡を、うさんくさそうに見張っていた。
 われわれは門番夫婦にも質問したかったが、彼らの姿は見えなかった。結局、われわれは屋敷の門にほど近い一軒の宿屋で、コルベイユの予審判事ド・マルケ氏が屋敷から出てくるのを待機することにした。五時半に氏が書記を連れて出てくるのが見えた。われわれは氏が馬車に乗り込む前に、次のような質問をすることができた。
『ド・マルケさん、捜査にさしつかえない程度で、事件の情報を提供してくれませんか?』
『何ひとつ話すわけにはいかん』と、ド・マルケ氏は答えた。『ただ、こんどの事件は、私が今までに知ったあらゆる事件のうちで最も奇怪なものだということだけは言える。何かひとつの事実がわかると、そのためますます、なんにもわからなくなるというわけなんだ』
 この最後の言葉について、さらに説明を求めると、氏は次のような、だれの目にもきわめて重要と思われる発言をした。
『本日、検事局が行なった現場検証に対して、何か新しくつけ加えるものがあらわれないかぎり、スタンジェルソン嬢がその犠牲となったこの憎むべき犯罪をめぐる謎は、ほとんど解決できそうもない。しかし私は明日から、四年前にあの離れを建てた請負師《うけおいし》とともに、『黄色い部屋』の壁、天井、床板などの調査を行なうから、いずれこの調査が『人間の理性のために』、事物の論理性について絶望してはならないという証拠をもたらすことを期待している。なぜなら問題は次の点にあるのだから。つまり、犯人がどこからはいったかは、わかっている。──犯人は入口からはいり、寝台の下に隠れて、スタンジェルソン嬢がくるのを待っていた。──が、それなら、どこから犯人は外に出たか? どうして逃げ出すことができたか? もし揚げ蓋《ぶた》、秘密の扉、秘密の隠れ場所、そのほかどんな種類の出口でも見つからなかったら──もしあらゆる壁を調べ、それらを取りこわしても──というのは私はそうする決心です、そしてスタンジェルソン氏も私と同様、離れを取りこわしてもいいと決心しているのです──『人間はおろか、どんな生き物でも』実際に通り抜けられる場所がなかったら──もし天井にも穴がなく、床下にも地下室がなかったら、そのときこそジャック爺さんの言うように、悪魔の犯行とでも考えなければならないだろう!』」

……巻頭より


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