「市民的抵抗の思想」

ソロー著・山崎時彦訳

ドットブック 152KB/テキスト版 90KB

400円

納税拒否の立場を明らかにした「市民の服従拒否」、奴隷制度反対の講演「マサチューセッツ州の奴隷制」、みずからの思想の原理を述べた「原理なき生活」の3編を収め、社会改良論者ソローの思想の根幹を明らかにする1冊。

ヘンリー・D・ソロー(1817〜62) マサチューセッツ州生まれ。ハーヴァード大学卒業後、小学校の教師。ついでエマソンの書生となる。徹底した個人主義を唱えるエマソンの影響のもと、のちに「森の生活」としてまとめられる独居生活を試みた。文明化・機械化を告発した思想家としても、後代に大きな影響をあたえた。

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  私は<心から>、「もっとも少く支配する政府が最良の政府である」というモットーをうけいれる。そしてこれがもっと早くかつ整然と実現されるのを見たいものだと思う。これが実現されると、ついには、これもまた私の信ずるところなのだが、「全く支配しない政府が最良の政府である」ということになる。そして人々がそういう気持になったときには、彼らはそうした種類の政府を持つようになるのだ。
  政府というものは、せいぜいのところ便宜(べんぎ)の手段にしかすぎないのだが、大抵の政府は通常は不便なもので、ときとしてすべての政府は不便なものである。常備軍に対して行なわれてきた反対論( アメリカ独立以前には、常備軍の自由に対する脅威という考えがあった。例「ヴァージニア権利章典第十三項」)は、その数も多く重要で、 一般に支持されるだけのねうちがあるのだが、その反対論はまた結局、常置政府に向けられてしかるべきものである。常備軍とは常置政府のふるう腕力にすぎない。政府そのものは人民が彼らの意思を遂行するために選んだ方式にすぎないのだが、その政府自体も同じく、人民がそれを使って行動することができないうちに、乱用悪用されやすいものなのである。
  現在のメキシコ戦争(一八四六年宣戦布告なしにアメリカ合衆国がメキシコに不法侵入した戦争をいうが、南部権力の奴隷州拡大意図の現れであった。四八年獲得したカリフォルニア、ニューメキシコのうち前者にゴールドラッシュが起った。また発端となった併合テキサス州は奴隷制となった)をごらんなさい、これこそ比較的少数の個人が、常置政府を自分たちの道具としてやっている仕業(しわざ)である。なぜなら人民は、当初には、このようなやり方にはとうてい同意しなかったであろうからである。
  このアメリカの政府……それは、歴史こそまだ浅いが、自分を損わずに後の世に伝えようと努力はしている、がしかしそれでもなお刻一刻その本来の完全さを少しずつ失ってゆく伝承的存在以外の何であろうか。この政府は、一人の生きている人間の活気もなければ迫力も持っていない、一人の人でもこの政府を自分の意志に従わせることができるからである。政府は人民自身にとっては木製の銃のようなものである。しかし、だからといって、政府がそれだけ必要でなくなるというのではない。なぜなら、人民は自分たちが政府とはこういうものだと考えている理念を満足させるために、何かこみいった機械装置といったものをつくり、それが立てる音を聞かないと承知できないからである。政府というものは、このように、人々が自分自身の利益のために、いかに見事にだまされうるか、いや、自分をだますことさえできるかということを示すものである。

……《市民の服従拒否》より


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