「宇宙の深淵より」

エリック・フランク・ラッセル/岡部宏之訳

ドットブック版 480KB/テキストファイル 182KB

700円

宇宙の高等生物と地球人類の接触をさまざまな視点から描いたユニークな傑作短篇集! 金星の密林を徘徊する、内気で迷信深い緑色人の話(『内気な虎』)、テレパシー能力を持つ高慢な火星人の物語(『人間やろう』)、美しい緑の惑星に罠を張って、人類を窮地におとしいれる小妖精の話(『虹の彼方』)、人類の絶滅し果てた地球に単身帰還した宇宙飛行士の感動的なドラマ『第二創世紀』など、傑作SF8編を収録!

エリック・フランク・ラッセル(1905〜78)イギリスのSF作家。エンジニアとして働きながらSFを書き始め、アメリカの「アスタウンディング・ストーリーズ誌」でデビュー。以後もおもにアメリカの雑誌に作品を発表した。「人類家畜テーマ」の代表作「超生命ヴァイ トン」のほか、「大いなる爆発」、短編集「宇宙の深淵より」など。

立ち読みフロア
 その爆発は感情抜きで、すべて計算通りに起こった。つまり、突然、予告なしに爆発したのである。最新型の地獄爆弾の百倍も千倍も恐ろしいものだったが、効果が現われるには、かなり時間がかかった。人類は攻撃を受けたことに気づかなかったばかりに、対策も講じなければ、反撃も試みなかった。
 そして真相が明らかになった時には、もう後の祭だった――それが敵の思うつぼだった。
 未知の敵の戦術は、むしろ、驚くほど単純な点が、その著しい特長になっていた。一隻の長い銀色の葉巻型宇宙船が空に現われ、予定の地点に七個の爆弾を投下していった。それに気づいたものはなかった。宇宙船は高度を三万二千メートルまで下げ、速度も時速七千七百キロまで落したが、これではとても肉眼で見るのは無理だし、レーダーのスクリーンも航跡を捉えることはできなかった。人類は、警戒すべき相手などいるわけはないと、高をくくっていたので、警戒体制をとっていなかった。世界は恐怖を知らず、半世紀以上も平和が続いていたのだった。
 爆弾は着地し爆発したが、華々しい場面も展開しなければ、轟音も起こらず、震動も感知されなかった。爆弾の外見も恐ろしいどころか、せいぜい、無責任な宇宙飛行士が放り出した、気の抜けたビール瓶ていどのものだった。実際、ただの小さな脆(もろ)い球体で、中にはいくぶん濁った液体が入っていた。これが地面に当って砕け、液体があたりに飛び散ったのだ。
 このしずくの飛散が「終りの始まり」となって、人類がドカンとではなく、ひっそりと確実に死に絶えてゆく原因となったのだ。未来の姿を予見しうるジャーナリズムなら、これは歴史上最大のスクープになるはずだった。だが、翌日これを報じた新聞は一つもなかったし、興奮した言葉で、一言でもこれを伝えたラジオもなかった。だれも気づかず、疑ってもいなかった。もう息の根は止っていた――もっとも、死ぬまでには時間がかかったのだが。
 一刻を争う事態であり、各瞬間が長い長い死の行進につながっているのも知らず、初めのうち、ほんのしばらくの間は、人類は安穏に暮らしていた。頭を悩ましている人もあるにはあったが、それは健康や赤ん坊や税金や株式のことだった。また、天の救済を待ち望んでいる人もいた。しかし、天から降ってきた毒薬に心を悩ます人はなかった。
 最初に注意を向けたのは、アイオワ州の農夫、バートン・マグワイアだった。最後に反応を示したのは、月にいた七人の男たちだった。マグワイアの不機嫌な苦情は最初の警告の役割を果たし、ルナ七人組の一人が最初に行動を起こしたのだった。
 月に人間がいるのは、もう珍しいことではなくなっていた。二十回も続けざまに月着陸に成功すれば、世人の驚異能力も底をついてしまうものだ。離れ業は最初の一回目だけが人の目を引く。二回目にはかなり魅力が減り、二十回目ともなれば、あたり前のことになる。
 金星か火星にでも着陸しなければ、六十年前の、あの騒々しいお祭騒ぎがくりかえされることはないだろう。しかし、それはまだ先のことで、どうやら、かなり待たされそうな様子だった。五千万キロともなると、ホップ・ステップ・ジャンプという具合にはいかない。
 人類は当分の間は、唯一の宇宙玩具として、人工衛星で満足しているよりほかなかった。そうした遊びが始まっていたので、月にその七人がいたのだった。かれらの任務は複雑でもなければ、ひどく難しいものでもなかったが、基礎的データの入手源として、価値があった。かれらは、そうした新しい玩具のサンプルを抽出していたのだった。
 この目的のために、相当な重量の器具が、四回に分けて、運ばれてきていた。円錐形のアイスクリーム入れを伏せたような、気密の聖域(サンクチュアリー)の中で、かれらは、無名の小さなクレイターに挑み、原子力エンジンを動かし、ドリルを回していた。ドリルは、連続した地質のサンプルを絶えず掘り上げ、その一つ一つが貴重な情報を含んでいた。専門家が、こうした外地球プラズマの円筒を一睨みすれば、うんざりするほど細かく、月の成因はこれこれしかじかと断定することができるだろうし、その後で、あるかどうかは別として、炭水化物だとか金属鉱石などの資料を分析して調べるのに役立つだろう。
 七人の男たちは、お仕置き中の劣等生さながらに、三角帽子ならぬヘルメットをかぶせられて、三十八万キロも島流しにされ、頬と顎をつき合わせて暮らしていた。時には、くさくさすることもあった。エンジンが唸り、ドリルはびゅんびゅん回転し、大がかりな索具はてっぺんまで、びりびり震え、割り当て時間をはるかに超過することもあった――お互い同士が取り組むのはそっちのけにして、当面の仕事に取り組まねばならなかったからだ。
 政府さしまわしの冶金学者、ウィルキンは、みんなの中で一番人付き合いが悪かった。年配の痩せた人物で、青い目に鉄縁の眼鏡をかけており、怒りっぽく、ひどい悲観論者で、停年も間近いのに、若僧のやる仕事を押しつけられて、憤懣やるかたないといった様子をしていた。地球の、風通しの悪い官僚界で舌禍問題を起こして、上役ににらまれ、飛ばされてきたのが、この月世界だった。
 いちばん元気のいいのがヤーブリッジ。最もがっしりした体格で、亜麻色の髪をしている――無線技師だ。一時アマチュア無線をやっていたことがあり、今では前代未聞の場所に開局するという光栄をになっていた。小型だが強力な送受信器がかれの守護神で、ヤーブーという、ありがたいコールネームまでついていた。他の連中にくらべれば、ヤーブリッジには強味があった――神様と遊ぶという楽しみがあり、神様の後には何千という見えざる友人がひかえていたのだから。唯一の不満は、毎朝受信カードが送られてこないことだった。
 いちばん忙しく、したがって、怒っている暇のないのがジェイムズ・ホランドで、ひょろっと背が高く、そばかすがあった。一行の中ではいちばん若かったが、もの静かで、考え深く、学者肌だった。それもそのはず、自動機器(オートメカニック)専門家として、四年間の原子力エンジンの研究実績を持ち、これから先四十年間は最新の知識を絶えず吸収しようと心に決めていたのだから。
 ここにきて受け持った最新型の機械の扱いを覚えるには、ちょっとした素早い頭脳労働が必要だった。というのは、ここの機械は国際動力研究所で見たものより、格段進歩したものだったので――寸法は四分の一、容積にして八分の一しかなく、燃料はトリウムだった。一見、二台のジーゼル・エンジンの鼻を突き合わせ、ファンの間に、核燃料を格納したような形をしていた。たぶんこれでも一年は時代遅れになっているであろう。ホランドは絶対に時代に遅れをとるまいとして、せっせと書物を読み、青写真を眺めていた。
 残る四人組みは、いろいろな点で奇妙に似たところがあった。胸が広く、目つきが鋭く、不精で、トランプのさまざまのゲームにかけては情け容赦のない達人ぞろいで、口のへらない連中だった。四人とも大石油会社のボーリング係として、地球の心臓をつついていた経歴の持ち主だった。だから、腕もよく、仕事のコツものみこんでいて、口は悪いが能率的に事を運んでいた。

……「最後の爆発」巻頭より

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