「動物の対話/平和」

ガブリエル・コレット/榊原晃三・山崎剛太郎訳

ドットブック版 281KB/テキストファイル 144KB

500円

あらゆる動物、とくに猫を可愛がっていたコレットによる動物をテーマにした2編。「対話」の中では、猫のキキとブルドッグのトビーの会話によって、彼らの生活を極めて自然に語らせるとともに、人間を理解しようと専念している動物たちを生き生きと見せてくれる。「平和」では、お得意の犬、猫をはじめ、青大将、魚、梟、松露を探す牝豚、鮮やかな蝶、熊、小鳥、虎、ライオン、豹、土蜘蛛、リス、テン、兎、かわうそ、キジといった動物が登場し、女性特有の愛情でやわらかく包まれて提供される。動物好きのコレットならではの「動物礼讃」。

ガブリエル・コレット(1873〜1954) 20世紀のフランスを代表する作家として再評価されつつある女流作家。二十歳のとき、年上の新聞記者と結婚。夫名で出版した『学校のクロディーヌ』が好評を得、立て続けに作品を発表した。06年に離婚後は、舞台に立ってパントマイムの世界で名を馳せた。12年には再婚。翌年には長女が誕生した。戦時中は新聞記者として活躍。戦後は『シェリ』『シェリの最後』など数々の作品を世に送り出し、作家としての名声を確立した。35年には3度目の結婚をしたが、夫の献身的な協力によって、70歳を過ぎても小説を書き続けた。

立ち読みフロア
登場者

 キキ=ラ=ドゥセット……虎毛のアンゴラ猫
 トビー=シャン……まだらのブルドッグ
 彼……とるに足りない領主たち
 彼女……同


感傷的性格

 陽(ひ)があたっている玄関前の石段。昼食のあとの昼寝の時間。トビー=シャンとキキ=ラ=ドゥセットが、焼けるように熱い石の上に横たわっている。日曜日の静けさ。だが、トビー=シャンは、蝿に悩まされ、昼食を食べすぎて胃が重いので、眠らない。彼はお尻を蛙よろしく平らにして、キキ=ラ=ドゥセットのところまで腹這いになっていく。虎毛のキキは身じろぎもしない。

【トビー】眠っているのか?
【キキ】(かすかに喉を鳴らす)……
【トビー】息たえだえってところか? ぺちゃんこになっているじゃないか! まるで能なしの猫の皮みたいだぞ。
【キキ】(死にそうな声で)放っておいてくれ……
【トビー】病気じゃないのか?
【キキ】病気じゃない……放っておいてくれ。眠るんだ。もう自分に身体があるかどうかもわからないんだ。きみのそばで暮らすのは、なんて苦痛なんだろう! 昼食(おひる)もすませたし、二時だ……眠ろう。
【トビー】おれは眠れない。胃の中でなにかころがっている。下の方へおりていくんだろうが、ゆっくりとだからな。それに、この蝿のやつらときたら、ええい、蝿のやつらめが!……一匹だけ見ていると、目玉が顔から飛び出しちまう。いったい、やつら、どうしようというのだろう? おれはもう、恐ろしい歯をむき出しにした顎だけになっちまっている(やつらがガサガサさせる音を聞いてみろ!)。そうしては、この罰あたりどもは、おれのところから逃げていくのだ。ああ! 耳んところにとまりやがった! 畜生! おれの柔らかな錆色の腹にきたぞ! 熱っぽい鼻面にもだ!……ほら! ちょうど鼻の上だ、見えるか? どうしてやろうか? にらめるだけにらみつけてやるのだが、どうもやぶにらみらしい……今は二匹いるのか? いや、一匹だけだ……そうじゃない、二匹だ……やつらを砂糖のかけらみたいに空中に放り投げてやる。でも、食いつくのは空気ばかり……もう、どうしようもない。おれは太陽が大嫌いだ、蝿も大嫌いだ、なにもかも大嫌いだ!……

 彼は呻く

【キキ】(眠気と陽(ひ)の光に目をとろんとさせながら坐って)とうとう、おれの目を覚ましちまったな。それこそ、きみが望んでいたことだったんだろう、そうだろう? 夢もどこかへいってしまった。とたんに、どうやら感じてきたぞ、きみが追いかける蝿の小さなうるさい足が、ぼくのふんわりした毛皮の表面にとまるのを。そいつは、ときどき軽くさわったり、撫でたりしては、ぼくを包んでいる撓(たわ)んだ絹のような草を、かすかにふるわせて波立たせる……でも、きみはなにをやるにもそっとできない。きみの下品な喜びはことを台なしにするし、きみの苦しみは芝居がかった声で呻きをあげる。まったく、南仏生まれは、どうしようもない!
【トビー】(苦々しく)目を覚ましたのは、それをおれに言いたかったからだな!……
【キキ】(訂正するように)きみがぼくの目を覚まさせたのだぞ。
【トビー】気分がすぐれなかったのだ。おれは助けがほしかった、元気づけてくれる言葉が……
【キキ】消化にきく言葉なんぞ一つも知らないね。ぼくらのことを考えるとき、いつもいやなやつだと見なされるのはぼくの方なんだ! だけど、きみだって多少は反省して、比べてみるといいのだ! 暑さはきみをたまらなくし、空腹はきみを気ちがいにし、寒さはきみを凍らせる……
【トビー】(むっとして)おれは感じやすいんだ。
【キキ】悪魔にとっつかれたやつとでも言うがいい。
【トビー】いや、とんでもない。おまえこそ、化物じみたエゴイストだぞ。

……「冒頭」より


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