「若きドン・ジュアンの冒険」

アポリネール作/須賀慣訳

ドットブック版 142KB/テキストファイル 77KB

400円

アポリネールにあっては、エロティシズムは単純に、快活に、あたかも恥ずかしがることも無用な、抑えることも無益な、偉大な自然の力のように花開く(ラブラッシュリー)。好色小説特有の陰湿ないやらしさ、じめじめした読後感とはまったく無縁な、前衛詩人の手になる「エロスの冒険」

アポリネール(1880〜1918)フランスの詩人・小説家。ポーランド系の血をひく両親のもとにローマに生まれた。モナコ、ニースで十代を過ごし、十九のときパリに出る。以後各地を放浪したが、フランスに帰化した。ピカソ、ブラック、マチス、アンリ・ルソーらの画家や前衛詩人たちと交わり、前衛運動の先頭に立った。マリー・ローランサンとのロマンス、「モナリザ盗難事件」での逮捕など、話題にも事欠かなかった。代表作に詩集「アルコール」「カリグラム」、評論「キュービズムの画家たち」、小説「異端教祖株式会社」。

立ち読みフロア
 このころ、ぼくは十三歳で、姉のベルトは十四だった。ぼくは愛の恋のといったことにはまったく無知で、セックスの違いさえぜんぜん無知不案内であった。
 ところが、自分が女性たちの前ですっ裸でいるのを自覚したときや、女性のやわらかい手がぼくの体のあちこちはい回るのを感じたときに、奇妙な効果がぼくの体に現れたものである。
 今でもすごくはっきりと覚えていることだが、叔母のマルグリットがぼくの陰部を洗ったりこすったりするやいなや、ぼくはなんとも言い表しようのない、奇妙きてれつな、けれどもまたこの上なく気分のいい感覚を味わったものである。ぼくは、自分のオチンチンがにわかに、鉄さながらに硬直し、それまでのようにブランブランとぶら下がる代わりに、かま首をもたげているのに気づいたものだった。すると本能的に、ぼくは叔母に近寄り、できるだけグンと腹をつき出したものである。
 ある日、ちょうどこんな具合になったとき、叔母のマルグリットはとつぜんもみじ(・・・)を散らしたが、散り映えたこのもみじ(・・・)の色が、優雅な彼女の表情をいちだんと愛らしく見せた。彼女はそそり立ったぼくのかわいいセックスに気がついたが、何も見なかったようなふりをして、ぼくらといっしょに脚湯をつかっていた母に合図を送った。そのときカートはベルトの世話をやいていたが、彼女はすぐにこちらに注意を向けてきた。もとよりぼくは前々から気づいていたのだが、彼女は姉のめんどうをみるのよりも、ぼくの世話をやくほうがずっとお気に召していて、この仕事のあいだに母や叔母に手を貸すチャンスはそつ(・・)なくものにしていた。いまや、彼女も何かを見たがっていたのである。
 彼女は顔をこちらに向けて、さりげなくぼくをながめ、一方母と叔母は互いに意味ありげな視線を交わしていた。
 母はペチコートをはいていたが、少しでも爪(つめ)が切りやすいようにとペチコートを膝(ひざ)の上のほうまでたくしあげていた。むっちりと肉ののったきれいな足を、力づよい美しいふくらはぎを、白い、丸々した膝をぼくの目にさらしたままだった。こうして母の両脚に一瞥を投げかけただけで、ちょうど叔母に体を近づけたと同じような効果をぼくの男性に及ぼした。彼女がパッと顔を赤らめ、ペチコートの裾(すそ)をおろしたところをみると、彼女にはきっと、すぐにその気配がわかったにちがいない。
 婦人たちはニヤニヤ笑い、カートはゲラゲラ大声で笑い出し、母と叔母のきびしい視線にあうまでその笑いをやめないほどだった。
 ところがそのとき、カートは弁解がましくこう言った。
「あたしが熱いスポンジであそこ(・・・)へ触れると、ベルトもいつも笑うんですよ」
 ところが母は、ピシャリと、お黙りなさいとカートに命令した。
 ちょうどその瞬間に、浴室のドアが開いて、姉のエリザベートが入ってきた。彼女は十五歳で、上の学校へ通っていたのである。
 叔母が、裸のぼくに大急ぎでシャツを投げかけたけれども、エリザベートにはぼくの姿を見る暇はあったし、そのおかげでぼくははなはだバツ(・・)の悪い思いを味わったものだ。というのは、ベルトの前ではぜんぜん恥ずかしいとは思わなかったが、それでももう四年も前からぼくらといっしょに入らず、二人の婦人か、でなければカートといっしょに入浴していたエリザベートに、すっ裸の姿を見られたくなかったからだ。
 ぼくは、この家の女性たちみんなが、ぼくにはその権利がないのに、ぼくが入浴中のときでさえ、浴室へ平気で出入りできることに、一種の腹立たしさを覚えていた。それにぼくは、姉のエリザベートひとりで風呂に入っているときでさえ、ぼくが中へ入るのをご法度にするなど、ぜったいに不当だと思っていた。それというのも、彼女は好んでお嬢さまらしいふりをしているとはいえ、どうして彼女だけがぼくたちと別扱いされるのか、その意味がわからなかったからである。
 ベルト自身にしても、エリザベートの不公平な要求を腹にすえかねていたのである。エリザベートはある日、妹の前で裸になるのをはねつけたし、そのくせにして、叔母や母がいっしょに浴室に入るときには、躊躇(ちゅうちょ)なく裸になっていたからだ。
 ぼくたちにはこんなやり方が理解できなかったが、これはひとえに、エリザベートの体に思春期のきざしが現れたことに由来している。彼女の臀部(でんぶ)は丸みをおび、おっぱいは大きくふくれはじめ、これはあとになって知ったことだが、脚のつけ根の丘陵にはすでに若草が萌(も)えていた。

……「1 お風呂の楽しみ」より

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