星間パトロール

「銀河大戦」

エドモンド・ハミルトン/深町眞理子訳

ドットブック版 211KB/テキストファイル 171KB

500円

銀河系宇宙のはるか外側の漆黒の闇のなか、壮麗に輝く島宇宙のへりにそって飛行を続けていた星間パトロールの一隊は、突然、どこからともなく飛来した宇宙船団の攻撃にあい、壊滅的打撃を受ける。何者か? それは死に瀕した宇宙から逃れて、新たな居住地を求める侵略者だった。彼らは銀河系のカニ座大星団を襲い、銀河征服の橋頭堡を確保した。からくも逃れた地球人ダー・ナルたちに残された唯一の道は、同じ侵略者の目標となっているアンドロメダ宇宙と連携して、これを撃退することだった。みずからの生存を賭け、三つの銀河を巻き込んだ大宇宙戦の幕が切って落とされる!

エドモンド・ハミルトン(1904〜77)アメリカ・オハイオ州生まれのSF作家。スペース・オペラ(宇宙活劇)の先駆的・代表的な作家として有名で、「星間パトロール」シリーズの雄大な構想は多くの読者の心を捉えて大評判となり、のちのE・E・スミスの「レンズマン」シリーズに引き継がれた。SFの多くのアイデアを創案したことも特筆される。他の代表作に「キャプテン・フューチャー」「スター・ウルフ」などがある。

立ち読みフロア
一 宇宙からの大軍

 足もとの床がぐらっと傾いて、ふいに船全体が激しく回転し、わたしは部屋のむこう側まではねとばされて、金属壁にたたきつけられた。そのあとしばらく、つかまるものを求めて空しく手探りするわたしの目にうつったのは、めまぐるしく回転する壁と床と天井だけ。そしてそれと同時に、あとにつづくわたしのささやかな宇宙中隊の各船が、なにかにもてあそばれるようにてんでに宙返りをくりかえしているのが窓ごしにちらりと見えた。それから、ようやく船体のめちゃくちゃな回転はおさまり、わたしはよろよろと立ちあがると部屋をとびだし、狭い梯子(はしご)をかけあがって、わたしの二人の副官が船の舵をとっている、小さな透明壁の操縦室へとびこんだ。
「コーラス・カン! ジュール・ディン」と、わたしは怒鳴った。「いったいこれはなんの真似だ! われわれをこなみじんにする気か?」
 二人はふりむいて敬礼した。二人といっても、ちょっと奇妙な組合せで、アンタレス人のコーラス・カンは、この星系で発達した金属人間のひとり。その脳髄や心臓や神経系統やその他の重要諸器官は、直立した金属ケースにおさまり、そのボディからは、三組の疲労知らずの強力な腕と脚がつきだし、頭というか脳容器というか、とにかく上部の球型の部分では、三角形に配置された三個のまなこがらんらんと光っている。いっぽうジュール・ディンはというと、これまた明らかにスピカ星人とわかる甲殻人間で、その大きな、直立した身体は堅い黒色の殻(から)におおわれ、頑丈な二本の腕と脚は、短く太く硬直しており、黒い円錐状の頭部からは、二つのまんまるな目がつきだしているというありさま。わが中隊の乗組員として、銀河系のあらゆる有人惑星から選抜されたとはいえ、およそ、わたしの前にいるこの二人ほど、珍奇な、異形の生物はざらにはいなかったろう。
 ややあって、コーラス・カンが答えた。「もうしわけありません、隊長。またしてもべつの、宙図にないエーテル流に遭遇したんです」
「またしても」わたしがおうむがえしに言うと、二人はうなずいた。
「うちの中隊の受持ち地域は、星間パトロールのうちでも、もっとも楽だとされる銀河系の縁辺区域なんですがね」と、ジュール・ディンが言った。「ところがここでは、ひとつこのいまいましい流れを脱したかと思うと、すぐまたべつのにぶつかるんです」
「ふん、流れだかなんだか知らんがだ、とにかくわれわれは針路を維持しなきゃならん。こんな僻地とはいえども、パトロールは常時続行されなきゃならんのだ」そう言ってわたしは、コーラス・カンの手が操縦桿を操作して、長くほっそりした船体を本来の針路にもどすのを見ながら、かれのかたわらに歩みよった。そうしてアンタレス人とスピカ人のあいだに立って、後部の望遠展望窓からうしろをふりかえってみると、まもなく、はるか後方で中隊の各船がもとの隊形をとりもどすのが見てとれた。それを見届けてわたしは向きなおり、二人の僚友とともに、前方に横たわる壮大な光と暗黒の景観をながめた。
 その光が横たわっているのは、われわれの前方左手だった。いっぽう、右手前方から後方にかけては、ただ暗黒が、外宇宙の完全な、想像を絶した闇が広がっているだけだ。けれども左手には、その漆黒の天空にそって、無数の星から成る壮麗な光のベルトがつらなっている。このすばらしい円盤状の星の集団こそ、わが銀河系宇宙であって、それが暗黒の宇宙空間に小さな光の島のように浮かび、この島宇宙の最外縁の星からさらに数千億マイル外側を、わがささやかな宇宙中隊はそのふちにそって飛んでいるのだ。この距離からその壮大な銀河をながめると、そこにきらめく数知れぬ太陽はひとつに溶けあって、ほとんどひとつの燃える火の塊りのように見える。それでも、その塊りのそこここには、大きな星々がひときわ明かるく輝きわたり、そのなかには、ヴェガの青みを帯びた光輝、アルタイルの黄色い光芒、人も知るカノープスの壮麗な白光、などが数えられる。それからまた、輝く星の集団のそこかしこに、ぼうっと異様な冷光が燃えているのは、銀河系に属する大彗星の光、さらには、まっすぐ左手の銀河系のふち、ややまばらな星の群のなかに輝くのは、有名なカニ座の大星団で、幾百、幾千というきらめく恒星群が、巨大な蜂の巣然とボール状に密集しているのである。
 けれどもわれわれの右手には、銀河系宇宙の光輝とはまったく対照的に、宇宙の外に横たわる果てしない空間の、深い虚無の暗黒が広がっているきりだった。暗く、あくまでも暗く、それは果てしれぬ虚空と夜とを想像もおよばぬ遠方まで広げている。その暗黒の彼方に目をこらすと、やがてそこに、かろうじてそれとわかるかすかな光のしみが、小さくぼうっと光っているのが見えてくる。宇宙の深淵を越えてわれわれの目に映じるこれらのかすかな光のしみこそ、わが銀河系とおなじ島宇宙で、これが、われわれの宇宙を去ること数百万光年という途方もない距離に位置しているのだ。われわれの持つもっとも速い宇宙船をもってしても、この果てしない虚空を乗りきることはできず、この気の遠くなるような距離の前では、わが宇宙内部の各恒星間の距離など、取るに足らぬちっぽけなものに見えてくるのである。
 沈黙のうちに、わたしたちアンタレス人、スピカ人、地球人から成る三人は、これまでもよく時間のたつのを忘れてそうしたように、その星々と宇宙空間のつくりだす壮大なパノラマに見とれた。わたしたちのいる小さな操縦室の下に広がる船体からは、ときおり乗員たちの異様にくぐもった声が、かすかな反響をともなって聞こえてきた。これらの声のほかに、それを圧するように低い脈搏音に似たうなりが間断なく流れていたが、これは、ほとんど一千光速もの高速で船を推進している強力な動力発振装置のたてる音だった。けれどもこれらの聞き慣れた物音をのぞくと、操縦室の内部を支配するのは静寂のみであり、その静寂のなかで、わたしたち三人は声もなく星のパノラマに見いっているのだった。どのくらいそうしていたろうか、ふいにコーラス・カンが鋭いさけびを発したかと思うと、上方を指した。
「ごらんなさい! あの宙図の上の光点の群を!」

 驚いたわたしたちは、アンタレス人の指すほうを追って、窓の上の壁にかかった大きな宙図を見あげた。その長方形のなめらかな金属面、そこにうつしだされているのは、われわれのすぐ身近な空域にあるすべての天体だった。宙図の左端から数インチの範囲に、小さな光点が多数散らばっているのは、左手にある銀河系の最外縁の星々を示している。それらの光点のいちばん端からさらに数インチ外側を、いましも銀河のふちに平行して、のろのろと黒い金属面を上昇してゆく一ダースほどの小黒点があるが、これがわれわれの中隊で、銀河の外縁部をパトロールする正規の任務に従事しているところだ。そして、この船の点からさらに数インチ外側、宙図の右側の黒い金属面に、反対方向からわれわれの船隊、われわれの銀河系宇宙へむかって近づいてくるべつの黒点の大集団がある。宙図から見るかぎり、この密集した黒点群は、外宇宙の深淵からわれわれの船へ、さらに左手の銀河系へと接近してくる物体の集団としか考えられない!
「隕石群だ!」わたしはさけんだ。はかりしれぬ暗黒の深淵から、わが銀河系へ近づいてくるものといえば、それ以外にはありえない。「外宇宙から飛んでくる隕石群だ。それも想像を絶した 速度で接近してくる」
「外宇宙からの流星群ね」と、コーラス・カンが考えぶかげにくりかえした。「それにしても、こんな大群は空前絶後だ。といって、宙図が嘘をつくはずもないし」

……冒頭より


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