「ゲーテ詩集」

ゲーテ/井上正蔵訳

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400円

「きみたちの詩はきみたちの体験をふくんでいるか、その体験がきみたちにとって進歩となっているか」若者にこう呼びかけ、一貫して時代に先駆けた試みをやめなかった詩人ゲーテの代表作選集。

ゲーテ(1749〜1832)裕福な家庭に生まれ、大学で法律を学ぶ。かたわら詩作をはじめとする創作活動に情熱をそそぎ「シュトルム・ウント・ドラング」のロマン的文学運動に傾倒。以降も終始ヨーロッパ全域にわたって時代をリードした。ワイマール時代には政務にもたずさわった。代表作『若きウェルテルの悩み』『ファウスト』『詩と真実』『イタリア紀行』など。死に際してのことば「もっと光を」は有名。

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魔王

こんな夜更(ふ)けに風吹くなかを
馬をとばして行くのは誰(だれ)だ
馬には父が子供をしっかり
大事(だいじ)にかかえて乗っているのだ

「どうして怯(おび)えて顔をかくすのだ」
「父(とう)さん 魔王が見えないの
あの冠(かんむり)とあの長い裾(すそ)」
「なんでもないよ 霧のながれだ」

「いい子じゃ おいで わしといっしょに
たのしい遊戯(ゆうぎ)をして進ぜよう
きれいな花は岸辺にあふれ
家(うち)には金の着物がどっさり」

「父(とう)さん 父さん 聞こえないかい
魔王が小声でぼくに言うのが」
「落ち着くんだよ なんでもないよ
枯れ葉にざわつく風の音だよ」

「いい子じゃ 行こう わしといっしょに
うちの娘によく世話(せわ)させる
娘ら夜ごと音頭(おんど)をとって
歌や踊りで寝かせてくれる」

「父さん 父さん 見えないのかい
あそこのかげに魔王の娘が」
「見えるよ おまえ よく見えるとも
古い柳がひかってるんだよ」

「かわいい子供じゃ きれいな子供じゃ
いやというなら 無理に連れて行く」
「父さん 父さん 魔王がぼくに
つかみかかって乱暴するんだ」

父はふるえて馬を駆(か)りたて
うめく子供をしっかり抱(かか)え
やっとのことで家にもどった
腕のわが子はもう死んでいた

〔シューベルトの作曲で有名な物語詩。一七八二年の作品。デンマークの民間の物語詩からヒントを得てつくられた〕

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