「グリム童話(上)」

グリム兄弟編・塚越敏訳

エキスパンドブック 203KB/ドットブック版 101KB/テキストファイル 87KB

500円

グリム兄弟が集めた、ちょっと怖いところもあるドイツ童話。この巻には「ヘンゼルとグレーテル」「灰かぶり(シンデレラ)」「赤ずきん」など代表作18編を収めた。エキスパンドブックは、素朴なヨーゼフ・シャールの挿画入り。

収録作品

蛙の王さま
いっしょに暮らした猫とねずみ
マリアの子ども
狼と七匹の子やぎ
忠臣ヨハネス
うまい商売
十二人の兄弟王子
兄と妹
野ぢしゃ
森のなかの三人の小人
糸紡ぎの三人女
ヘンゼルとグレーテル
三枚の蛇の葉
白い蛇
漁夫とその妻の話
灰かぶり(シンデレラ)
ホレのおばさん
赤ずきん

グリム兄弟
兄ヤーコプ・ルートヴィヒ・カール(1785〜1863)と、弟ヴィルヘルム・カール(1786〜1859)は1歳ちがいの兄弟として、ヘッセンのハーナウで生まれた。二人はマールブルク大学にまなび、兄は言語学者になり、弟は文献学と文芸評論に関心をもった。兄弟はカッセルで図書館員として過ごしたあと、ともにゲッティンゲン大学の教授となったが、のち、プロイセン国王の招きでベルリン大学の教授となり、共に死ぬまでベルリンに暮らした。兄弟は、古いドイツの民話に興味を持ち、多くの資料にあたってそれらを収集し、「子供と家庭のための童話」にまとめて出版した。これが有名な「グリム童話」である。この二人のもう一つの大きな業績は「グリム・ドイツ語辞典」の編纂で、この辞典は二人の死後、何世代もの学者たちにひきつがれ、1960年に16巻32冊からなる大辞典として完成した。

立ち読みフロア
 むかし、まだなんでも願いごとがかなえられたころ、ひとりの王さまが住んでいました。王さまには三人のお姫さまがいて、どのお姫さまもみなきれいでしたが、いちばん末(すえ)のお姫さまはとくべつきれいでした。ずいぶんといろいろなものを見てきたお陽(ひ)さまでさえ、そのお姫さまの顔を照らしてみるたびに、とてもきれいなのでびっくりするのでした。
 王さまのお城の近くには、大きな暗い森があって、その古い菩提樹(ぼだいじゅ)の木の下には、泉がありました。昼日中(ひるひなか)、とても暑いときなど、お姫さまは森に出かけていって、涼しい泉のふちに腰をおろすのでした。でも、こうして、いつかたいくつすると、お姫さまは金の玉を取り出して、それを高く投げあげては、落ちてくるのをつかまえて、遊ぶのでした。それはお姫さまのいちばん好きなおもちゃであったのです。
  ところがあるとき、金の玉はお姫さまの高くさしあげた手のなかには止(と)まらないで、手からするりと抜けて、土の上にぽとんと落ちて、そのまま水のなかに転(ころ)がりこんでしまったのでした。お姫さまはそのあとを追って見ていたのですが、玉は見えなくなってしまいました。泉はとても深くて、底も見えないくらいです。お姫さまは泣き出してしまいました。その泣き声は、ますます大きくなるばかり、お姫さまは、どうしてもあきらめきれなかったのです。こうして、お姫さまが悲しんでいたとき、誰やら声をかけるものがおりました。
 「お姫さま、どうしようというのです。ほんとうに大きな声をお出しになって。石ころだって悲しくなって、泣き出してしまいますよ」
 どこから聞こえてくるのかしら、お姫さまは、あたりを見まわしました。すると、目にとまったのは、ぼてっとしたいやらしい頭を突き出した蛙(かえる)でした。
 「まあ、おまえだったの、水パチャさん。金の玉がね、泉の水のなかに落(お)っこっちゃって、わたし、泣いていたのよ」
  と、お姫さまが言うと、蛙はこう答えるのでした。
 「静かに、静かに。泣くんじゃありません。なんとかなりますよ。でも、あなたのおもちゃを拾ってきてあげたら、ぼくになにかくれますか?」
 「なんでもあげるわ。蛙さん、おまえのほしいものなら、なんでもね。わたしの服でも、真珠(しんじゅ)でも、宝石でもいいわ。それに、いまかぶっている黄金(きん)の冠(かんむり)でもね」
 「あなたの服、あなたの真珠、宝石、それにあなたの黄金の冠、そんなもの、なんにもほしくはありませんよ。でも、ぼくをかわいがってくださる気なら、ぼくを、あなたの仲間に、あなたのお友だちにしてくださいよ。テーブルにすわるときには、おとなりにね。食べ物はあなたの金のお皿で、飲み物はあなたの盃(さかずき)で、いただくとしましょう。それにあなたのベッドにも寝かせてくださいね。そうすると約束してくださるなら、さっそくもぐっていって、金の玉を拾ってきてあげますよ」

……《蛙(かえる)の王さま》より


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