「ガリバー旅行記」

スウィフト作/梅田昌志郎訳

エキスパンドブック 1401KB/ドットブック版 340KB/テキストファイル 262KB

600円

架空の四つの国を旅するガリバーを待っていたものは? 17世紀の英国に材料を採りながら人間と社会にむけて痛烈な風刺の矢をはなった諷刺文学の最高傑作。宮崎駿の宙に浮かぶ「ラピュタの城」はむろん第三部の「飛び島」からきている。エキスパンドブック版ではアイヘンバーグの木版10数点収録。

第一部 リリパット(小人国)旅行記

第二部 ブロブディンナグ(巨人国)旅行記

第三部 ラピュタ(飛び島)、バルニバービ、ラグナグ、グラブダブドリブ(魔法つかいの島)および日本旅行記

第四部 フウイヌム国旅行記

ジョナサン・スウィフト(1667〜1745)英国の諷刺作家。アイルランドのダブリン生まれ、3歳まで孤児同然で親戚に養われ、学校では神学・哲学・数学などを嫌悪して、徹底的な劣等生・問題学生だった。トリニティ・カレッジ卒業後、政界の有力者の秘書、牧師などになったが、政治には終始、大きな関心をいだき続け、とくにアイルランド問題では活発な活動をおこなった。この間『桶物語』『書物戦争』などを著して風刺家として名をなした。1726年に『ガリバー旅行記』を出版。晩年は廃人同様の暮らしを送った。

立ち読みフロア
  ……この島は予想していたよりもはるかに遠くて、五時間はたっぷりかかった。上陸するのに都合のよさそうな場所をめっけようと、ほとんど周囲をひとまわりしてしまった。見つけ出した場所は小さな入江で、カヌーの幅の約三倍という狭さだ。上がってみたら、全島岩だらけ、わずかに雑草や匂いのいい薬草がちょぼちょぼ生えているだけだ。私は少ない食糧を取り出して、ちょっと腹ごしらえをしてから、洞穴の中へ残りをかくした。洞穴はじつにたくさんあった。その一つである。岩から卵をしこたま手に入れ、乾いた海草や枯草もどっさりかきあつめた。これは翌日の燃料にして、出来るだけうまく卵を焙(あぶ)り焼きにしてやろうという計画だった(私は火打ち石と火打ち鉄、つけ木、凸レンズを持ち合わせていたから)。
  その晩は食糧をしまいこんだ洞穴に寝た。ベッドは燃料用に集めたれいの枯草や海草である。疲れてはいたが、ほとんど眠れなかった。不安が胸を去来し、眼は冴(さ)えるばかりだった。こんな無人島で生命をつなぐのは、とうてい不可能だ、わが人生の結末は何とまあ惨たんたるものか、と。いろいろ考えても、まったく気力を失い、何とか洞穴から這い出る元気が戻ってきた時には、すでに日が高く昇っていたのである。
  私はしばらく岩の間を歩きまわった。空は晴れ上って雲ひとつ見えず、太陽は灼(や)けつく熱さで顔をそむけずにはいられなかった……その時である。突然周囲が暗くなった。どうもそれは、雲にさえぎられたのとはまるっきり違うと思われた。振り返って見ると、どうだ、一個の巨大な不透明な物体が、私と太陽との間を、ぐんぐん島へ向かって来るではないか。高度は二マイルほどと思え、六、七分の間、太陽をおおいかくしていた。だが、山蔭に立つ時よりも空気が冷くなったり、空が暗くなったりするわけではないのだ。
  だんだん近づいて私の頭上に来ると、そいつは堅固な物体らしかった……底は平らで滑らかであり、下方の海面から光の反射を受けて眩(まぶ)しいほどきらきらする。私は海岸から二百ヤードばかりの高みに立って見ていたのだが、この巨大な物体は次第に下降して、つい眼の前一マイルとは離れていないところで、私とほとんど水平の高さになった。懐中望遠鏡をとり出して眺めると、側面は傾斜しているらしく、そこをおびただしい人間たちが昇ったり降りたりする様子がはっきりと見えるのだ。しかし彼らがいったい何をしているのかは見分けられなかった。
  生きたいという自然の欲求が、私の胸にふるえるような喜びを生み、すぐに、これはひょっとすると何とかしてこのやりきれない状況から救われるかもしれない、という希望がわいた。しかし同時に、人間の住む島が空中に浮かんでいて、人間の思うままに上昇したり下降したり、また前進したり出来る(どうもそうらしい)のを見た私の驚ろきを、読者はまず想像もできないだろう。

……《第三部ラピュタ、バルニバービ、ラグナグ、魔法つかいの島および日本旅行記》より


購入手続きへ


*** 作品一覧へ *** ホームページへ ***