「ホームズの冒険」

コナン・ドイル作/鈴木幸夫訳

エキスパンドブック(挿し絵入り) 656KB/ドットブック版 293KB/テキストファイル 258KB

600円

名探偵シャーロック・ホームズの名を不朽のものにしたドイルのホームズ物傑作短編第一集。 「ボヘミア王家の色沙汰」「赤毛連盟」「ふきかえ事件」「ボスコム谷の秘密」「五つぶのオレンジのたね」「唇の曲がっている男」「青い紅玉(ルビー)」「まだらのひも」「技師のおや指」「独身の貴族」「エメラルドの宝冠」「《ぶなの木》館」」の全12編をテンポ快調な鈴木幸夫訳でおくる。ホームズ物が大人の読み物であり、現在も100年前と同じ人気を誇る理由は、最初の一編を読めば一目瞭然。ホームズの魅力を知るための絶好の入門編。 エキスパンドブック版には「ストランド」誌発表時のシドニー・パジェットのイラスト20点収録。
立ち読みフロア
  私はこの八年間にわたって、わが友シャーロック・ホームズのやり方を研究してきたのであるが、この間に書きとめた七十件あまりの事件のノートをくってみると、そこには多くの悲劇と、喜劇もいくつか見られるのであるが、いずれもきわめて風変わりな事件であって、平凡なものは一つもない。というのも、ホームズがこれまで仕事をしてきたのは、金もうけというより自分の技術を愛する上でのことで、非凡で奇怪にも見える事件になりそうなものでなければ、調査に乗り出そうとはしなかったからである。しかし、これらのいろいろな事件の中でも、ストーク・モランのロイロット一家の、あの有名なサリー州の一家に関する事件ほど、奇怪な様相を呈していたものを、ほかには思い出すことができない。
  この問題の事件は、私がホームズとつき合って間もなく起こったもので、そのときは私はまだ独身であったこととて、ベイカー街で二人で同居生活をしていた。この事件はずっと前に記録に書いておいてもよかったのであるが、当時秘密にしておく約束をしたわけで、これを発表できるようになったのは、つい先月、その約束をした相手の婦人がはからずも亡くなったからである。もう今は事実を明るみに出すほうがよさそうである。というのは、グライムズビー・ロイロット博士の死に関して、この件を真実以上に恐ろしいものにしかねない噂(うわさ)が広まっていることを、私は故(ゆえ)あって知っているからである。

  一八八三年の四月はじめのころ、ある朝目を覚ますと、シャーロック・ホームズはすっかり着こんで、私のベッドのかたわらに立っていた。ホームズはきまって朝寝坊なのだが、マントルピースの時計を見ると、まだ七時を十五分過ぎたばかりなので、私はふと驚いて、ぱちくりしながら彼を見上げた。ほんの少々不服そうな顔つきを見せたかもしれない。私は規則正しい習慣を守っていたからである。
 「起こしてすまなかったが、今朝はみんな同じ憂(う)き目にあったのだ。ハドスン夫人が起こされて、夫人が僕を起こし、僕が君を起こしたというわけだ」
 「どうしたんだい。火事かい」
 「いや、依頼人でね。若い女の人がかなり興奮してやって来て、しきりに僕に会いたがっているらしい。いま居間で待っているんだ。ところで若い女の人がこんなに朝の早い時間にロンドンをほっつき歩いて、眠っている人間をたたき起こすというのは、よくよくさしせまったことがあって、ぜひ話を聞いてもらいたいのだよ。おもしろい事件であるとなれば、きっと君ははじめから聞きたいだろうからね。ともかく君を起こして、その機会をこしらえてあげたいと思ったんだよ」
 「そうかいホームズ。なんとしても聞きのがすわけにはいかないさ」
  私のぞくぞくするような喜びといえば、ホームズの専門的な調査のあとをたどり、その推理を嘆賞するのにまさるものはない。ホームズの推理は直感さながらに素早くひらめき、それでもいつも論理的な基礎をふまえていて、持ちこまれた問題を解決したものである。私は急いで服を着こみ、二、三分すると用意ができて、ホームズと連れ立って居間へおりていった。

……《まだらのひも》より


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