「エプタメロン」(上下)

ナヴァル女王マルグリット作/澤木譲次訳

(上)ドットブック 315KB/テキストファイル 214KB
(下)ドットブック 312KB/テキストファイル 211KB

各800円

邪欲に燃え狂う僧侶、愛欲に盲目となる王、わが子と奸淫を犯す貴婦人……いっさいの権威をはぎとられた赤裸々な人間像をえぐりだしたフランス版「デカメロン」の全72話からなる完訳版。
ナヴァル女王マルグリットはフランソワ1世の姉で、その宮廷に多くの人文学者や芸術家をあつめ、16世紀フランス・ルネサンスの華がひらいた。彼女は詩人で、宗教改革者たちの保護者でもあった。

立ち読みフロア
 トゥールの町に、フランソワ一世の王子、故オルレアン公の室内装飾師をして いた、なかなか抜け目がなく、機転に富んだある人物がいました。この室内装飾師は、たまたま病気にかかって耳が聞こえなくなっていましたが、機転のほうは衰えず、自分の商売ばかりでなく他のことにかけても、人一倍みごとな腕前をふるっていました。彼がその機転をどのように働かせたか、これからお聞かせいたしましょう。
 彼は善良で貞淑な女と結婚して、しごく平和な生活を送っていました。彼は妻の心を傷つけることをおそれ、妻も何ごとも夫の言うことに従おうとつとめていました。ところが、彼は妻を愛してはいましたが、なかなかの博愛家で、できるだけ内密にではありますが、妻だけに与えるべきものを、隣人の女たちに与えることがたびたびだったのです。
 彼の家に、たいへん身体つきのよい小間使いがいました。この小間使いに室内装飾師が目をつけたのですが、妻君に気取られるといけないと思い、始終、わざと小言を言ったり叱ったりして、彼女(あれ)は今まで見たこともない怠け者だとか、女主人が一度も叩いてやらないものだから、ああなるのも無理はない、などと言っていたのです。
 で、ある日、夫婦の間に聖孩(せいがい)日の鞭打ちの話が出たとき、室内装飾師が妻に言いました。
 「お前の怠け者の小間使いにあれをくらわせてやったら、よい施しものになるよ。でも、お前の手で叩いたんじゃ駄目だね。お前は力がないし、それに優しすぎるからな。だから、俺が叩いてやるよ。そうしたら、今よりもっとよく働くようになるだろう」

……第四十五話 「ある夫が聖孩日の鞭打ちを小間使いに加えたことに して、単純な妻君をだましたこと」より。


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