「ハックルベリ・フィンの冒険」

マーク・トウェイン作・刈田元司訳

エキスパンドブック 490KB/ドットブック版 266KB/テキストファイル 282KB

600円

ヘミングウェーによってアメリカ近代文学の源泉とみなされた作品。ミシシッピ川流域ののびやかで豊かな自然と小さな町を舞台に繰り広げられる、浮浪児ハックと黒人奴隷ジムの冒険。名訳として名高い刈田元司氏の翻訳で。エキスパンドブックには、原書初版からの挿し絵36点を収録。

マーク・トウェイン(1835〜1910)ミズーリ州の寒村生まれのアメリカの作家。皮肉たっぷりのユーモアや痛烈な社会批判をアメリカ英語で展開、現代アメリカ文学の先駆者のひとり。本名サミュエル・ラングホーン・クレメンス。12歳のとき、父の死により、印刷屋の従弟になり、その後新聞社で植字工として働き、かたわら、小品の投稿を始めた。30歳のときに発表して、のちに「その名も高きキャラベラス郡の跳び蛙」と改題された作品で、一躍有名になった。東部の上流階級の娘と結婚、その後はニューヨーク州バファローで暮らし、その後コネティカット州ハートフォードに移った。このころに書かれた三部作「トム・ソーヤーの冒険」「ミシシッピ川上の生活」「ハックルベリ・フィンの冒険」は、「王子と乞食」とならんで代表作となった。

立ち読みフロア
  「トム・ソーヤーの冒険」という名前の本を読んだことがなければ、おれのことなんか知るまいが、そんなことはどうだっていい。その本をつくったのはマーク・トウェインさんで、だいたい本当のことを言っていた。大げさに言っていることもあるにはあったが、だいたい本当のことを言っていた。そんなことはどうでもいい。一度かそこいら嘘(うそ)をつかない人なんかおれは見たこともないが、まあ例外はポリーおばさんか、後家さんか、ことによるとメアリだろう。
  ポリーおばさん(つまりトムのポリーおばさん)とメアリと、ダグラス後家さんのことは、みんなあの本のなかに書いてある……だからあの本はだいたい本当の本だ。前にも言ったように、いくらか大げさな話があるにはあるが。
  さて、その本の結末はこんなぐあいになっている。トムとおれは泥棒がほら穴にかくしたお金を発見して、おかげでおれたちは金持ちになった。めいめい六千ドルずつで……全部金貨だった。積みあげると、すごいお金の山だった。で、サッチャー判事が責任をとって、その金を利息つきで貸しだしてくれたので、おれたちは一年中、めいめい毎日一ドルずついただくことになって……いやはや、だれだってどうしていいかわからないくらいの金よ。ダグラス後家さんはおれを養子とし、おれを文明人にしようと考えた。だが、後家さんのやることなすことがひどくきちんとして上品なのを考えると、こういう家にしょっちゅう暮らすのがつらくてたまらなかったので、おれはもうがまんができなくなって、飛びだしてしまった。おれはまた昔のぼろ服と砂糖の空樽(あきだる)にもどり、自由になって満足した。だが、トム・ソーヤーのやつがおれを捜しだし、これから強盗隊をつくろうとしているんだが、もしお前が後家さんのところへもどって体裁よくしていたら、入れてやってもいいぜと言った。それでおれは帰った。
  後家さんはおれのために泣いて、おれをかわいそうな迷える小羊とよび、またほかのいろんな名まえでよんだが、べつに悪気でそうよんだのではなかった。後家さんはまたあの新しい服をおれに着せ、おれはもう汗がどんどん出るばかりで、ひどく締めつけられるような気持ちで、身うごきもできなかった。
  さて、そこで、例の古いことがまたはじまるのだった。後家さんが晩飯の合図に鈴をならすと、時間きっちりに行かねばならなかった。テーブルへついても、すぐ食いだすことなどできっこなくて、後家さんが頭をさげて、食べ物にむかって何かぶつぶつ言うのを待たねばならなかった。といって、食べ物が本当にどうかしていたわけではなかった。すなわち、何もかもべつべつに料理してあるだけで、異状などなかったのだ。これが残飯の桶(おけ)だと、事情はちがう。いろんなものがごちゃごちゃまじりあい、汁もなんとなくいっしょくたになって、味は一段とよくなる。
  御飯(ばんめし)がすむと、後家さんは本をとりだして、モーゼと葦(あし)のことをおれに教えた。おれは手に汗をにぎってその男のことを全部さぐりだそうとしたが、やがて、後家さん、モーゼがずいぶん前に死でしまっていることを、うっかり口にしてしまったので、おれはもうその男のことなんか気にしないことにした。おれは死んだ連中なんどに用はないんだから。

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