「四畳半襖の下張り」

金風山人作

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400円

 永井荷風作といわれる日本を代表するerotica.
立ち読みフロア
 さるところに久しく売り家の札(ふだ)、斜めに張りたる待合(まちあい)、もとより横丁なれども、その後、往来の片側取りひろげたなりで表通りの見ゆるようになりしかば、待合稼業当節のご規則とて代がかわれば二度ご許可なるまじとの噂(うわさ)に、普請(ふしん)は申し分なき家なれど買い手なかなかつかざりしを、ここに金風山人(きんぷうさんじん)という馬鹿の親玉、通りがかりに何心もなく内をのぞき、家づくり小庭の様子ひとめ見るなりむやみとほれこみ、早速買い取りここかしこ手を入れる折から、母家から濡れ縁づたいの四畳半、その襖の下張りなにやら一面にこまかく書きつづる文反古(ふみほご)、いかなる写本のきれはしならんと、かかることには目ざとき山人、経師屋(きょうじや)が水刷毛(みずはけ)奪い取って一枚一枚はがしながら読みゆくに、これさても誰(た)が筆のたわむれぞや。
 はじめのほうはちぎれてなし、持って生まれし好きごころ、いくつになっても止むものでなし。十八の春、千種の花読みふけりしころ、ふと御神燈(ごじんとう)のかげくぐり初めしより幾年月の仇夢(あだゆめ)、相手は新造(しんぞ)、年増、小娘のいろいろと変われども、主のこなたはいつも変わらぬ好きごころ飽くを知らず、人生五十の頃もはや一つ二つ越しながら、寝覚(ねざめ)の床に聞く鐘の音も、あれは上野か浅草かとすぐに河東(かとう)からの鼻唄、まだなかなか諸行無常とひびかぬこそいやはや呆れた次第なり。

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