「三人の少女」

ジャム作・田辺保訳

エキスパンドブック  591KB/ドットブック 186KB/テキスト版 142KB

400円

クララ、アルマイード、ポムの三人の少女がそれぞれにつむぎ出す物語は、モーリヤックをして「一八七〇年以来フランスにあらわれたいちばん美しい愛の物語」と言わせた詩人ジャムの佳品。エキスパンドブックはルネサンス全書版からのきれいな挿し絵入り。
立ち読みフロア
  クララ・デレブーズは、くるくる巻いた髪の下で目をさまし、はだかの腕に口をあててあくびをする。ブロンドで、まる顔だ。目は、よく晴れた日の空の色をしている。
  あのなつかしい夏休みの日の太陽が、東の窓では、花もようのすきとおったインドさらさのカーテンに、ユリの木のかげを、ゆらゆら動かしている。
 八時だ。澄んだ光が、部屋にながれるようにはいり、青色のぱっとはなやかな壁かけの上に、ジョアシァン・デレブーズの肖像画を照らしだす。クララの大おじにあたる人だ。
  そこで、少女はもう一度あくびをし、伸びをし、もの思いにふける。
  どんな人だったのだろうな、ジョアシァン・デレブーズのおじさまって。おじさまのおなくなりになったポアント・ア・ピートルのお家は、すてきな所だったのかな……おばあさまが、いつか見せてくださって、下の引き出しに入れてある小さな肖像画は、おじさまの婚約者だった人のものだ。ロールさんというお名まえだった。ほんとうに、美しい人だ。それはそれは黒い色の髪の毛をくるくる巻いていらっしゃって、さんごの首かざりをつけ、みどり色のしまのはいったまっ白なモスリンの上着を着ていらっしゃる……あの女の人も、おじさまのそばに埋葬されていらっしゃるのかしら。……おじさまは、決闘をなさったことがあるそうだ。そのお話をなさったのは、ダスタンさんだった……ロールさんは、かあさんよりももっと美しい人だったのだろうか。
  クララ・デレブーズは、着物をつけ、そしてお祈りをする。家じゅうが目をさます。階段のきしる音がする。カナリヤのさえずりが、玄関からきこえてくる。彼女は食堂へおりて行き、くだものかごからぶどうをひとふさ取り上げる。つぶらな実が、彼女のかろやかな指の間で光る。
  ……もう九時だわ。かあさんは、おミサからの帰りに、きっとどこかへ寄っていらっしゃるのだわ、……と彼女は思う。
  壁の時計が九時を打つ。にれの木にかこまれた教会のもようが彫ってある壁で。油絵でえがかれたきれいなその鐘楼(しょうろう)の中にはさまれて、小さな振り子は、しわがれたやさしい音をたてる。お昼と夕方には、お告げの鐘のまねをして鳴る。木の下には、女の羊飼いがひとり、男の羊飼いがひとり、たくさんな羊たちもいる。
  クララ・デレブーズは、羊飼いの男女を見つめる。そして、こんなことを考える。
  ……ふたりは何か話をしてるわ。絵の中の御堂(みどう)で、結婚することになるのかな。ふたりは、しあわせになるかしら。そうだといいのに。でも、どうせ絵の中のことだもの、結婚なんかしないだろうな……

購入手続きへ


*** 作品一覧へ *** ホームページへ ***