「江戸小咄春夏秋冬」  

江戸小咄を「新年」「春」「夏」「秋」「冬」の、五つの季節にふさわしい129の話題にそって分類。小咄、川柳を中心にすえ、季節の風物・事物・場所・言葉にまつわる来歴をまじえて、親しみやすく書き下ろした歳時記ふうの好読み物。全7巻。著者は江戸小咄、川柳、古典落語研究の第一人者興津要(おきつかなめ)氏です。

◆ドットブック版(全7巻) 

新年・春・秋 各220円
夏(一・二)・冬(一・二) 各200円

◆デラックス愛蔵版 2.5MB 1600円

デラックス愛蔵版は上記全7巻をまとめたHTML版で、広重の版画「名所江戸百景」から最高の作品を50点選んで、解説とともに収録しております。デラックス愛蔵版につきましてはぜひサンプルをご覧下さい。

愛蔵版サンプル「夏の巻四」

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立ち読みフロア

●涼み台

 くらき夜に艶なる声や涼み台    随古

 現代のように冷房器具のなかったころは、暑さを忘れるために、磯涼み、川涼みなどにも出かけたが、もっとも手軽なのは、庭や門口に涼み台を出しての夕涼みだった。
 この句のように、涼み台におけるラブ・シーンも展開されることもあったが、「涼み台月に将棋の駒迎い」という句もあるように〈涼み将棋〉の光景も見られた。

 ◆さすが浪人
 寄り合いて将棋をさし居けるに、浪人者ひとり、朱鞘(しゅざや)の大だら〔幅の広い大刀〕をさし、こわらかして〔いかめしく身がまえて〕見ていて、毎度、助言(じょげん)をいうゆえに、
「はて、仰(おお)せられな〔横から口を出しなさるな〕」
 と、いいさまに〔いいながら〕、扇(おうぎ)にて頭を一つたたきければ、かの浪人、ものをもいわず、座を立って帰りぬ。
 それから一座がしらけて(ヽヽヽヽ)、
「さてさて、気の毒なことかな。もっとも、助言をいうは至極悪けれど、侍の頭を叩くとはあんまりなことじゃ。これは、尻の来ぬさきに〔とばっちりが来ぬ前に〕、こっちから謝るがよかろう」
 と、評判とりどりのところへ、かの浪人、兜(かぶと)を着て、ずっと通る。
「南無三(なむさん)、大事じゃ〔しまった、大変だ〕」
 と、さわぎければ、かのさむらい、座をしめて〔坐って〕、
「さあさあ、おさしなされ。なんぼたたかれても、これでは、たしかじゃ〔大丈夫だ〕」……天明三年正月序『夜明烏(よあけがらす)』

 助言者も決死の覚悟だった。

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●蚊

 蚊の声や昼はもたれし壁の隅    闌更
 竹切りて蚊の声遠き夕べかな    白雄

 夏、人間をもっとも悩ます昆虫の蚊の声は、とかく耳について離れないものだが、〈か〉の語源は、鳴き声によるという説がある。しかし、一方ではまた、

 蚊や人を夜は食らえども昼見えず    調和
 血を分けし身とは思わず蚊の憎さ    丈草

 というように、人間に噛みつく意味の〈かむ〉の〈む〉を略したという説もある。
〈かむ〉蚊が、色っぽい場面に登場した。

 忍ぶ夜の蚊はたたかれてそっと死に    〔拾2〕

 秘めたる恋の相手の女性のもとへ忍んでゆくときには、蚊にさされても、音をたててたたくわけにはいかない。しずかにたたくので、蚊のほうも、そっと、しめやかに死んでゆくのだった。

 ◆蚊遣(かやり)
「夏の月蚊をきずにして五百両トいう其角(きかく)の句があるが、ちげえねえ。いい月夜だから涼もうとすれば、蚊が、ぶんぶん食うし、蚊帳(かや)をつればうるさし。しかたがねえ」
「そんなに蚊がいるなら、来ねえようにすればいいのに」
「来ねえようにしてえといったって、こればかりは、しようがあるめえ」
「そう知恵がねえから、いかねえ。こうするだ。日の暮れがたから、どんどんどんと、いぶしをかけると、蚊が苦しがって、みんな二階へ逃げていくわさ。そらそこで、はしごをひきなせえ」……安政三年正月序『落噺笑種蒔(おとしばなしわらいのたねまき)』

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●紙帳(しちょう)

 松風にゆるぐ紙帳や窓の下     丈草
 京人は明るさしらじ紙の蚊屋    一茶

 和紙を貼り合わせてつくった蚊帳で、ところどころに風窓を切り、薄い紗(しゃ)などをはってあった。
 防寒用にもなったというから、寝冷えしない長所があったというが、蚊を避けることはできたにしても、風通しは悪く、蒸し暑いものだったろう。
 紙帳の〈帳〉は、〈とばり〉で、室内に垂らし、区切りや隔(へだ)てにする布をいうが、〈とばり〉は〈戸張り〉、すなわち、戸を閉めるべきところに張るものの意味であろう。

 ◆紙帳
 殊(こと)のほか近くに火事あれば、亭主、紙帳をつり、ことごとく諸道具を、その紙帳のなかへ入れければ〔入れたので〕、女房気の毒がり〔当惑して〕、
「おまえ、その紙帳は、なんのためにつることぞ。この急な火事に」
 と、いえば、
「やかまし。だまっていろ。火事に土蔵と見せるのだ」……安永八年刊『寿々葉羅井』

 火事をだまして焼かせまいというのだが、ふしぎな発想の持ち主だった。

……夏の巻より

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