「愛と死の詩集」

D・H・ロレンス/安藤一郎訳

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400円

「私は旅して、世界をながめ、それを愛した」と、その詩のなかでうたったロレンスは、性愛の哲学を唱導しながら、一生を通じて各地を遍歴しつづけた作家だった。そして膨大な量の小説作品を書くかたわら、つねに詩を書くことを怠らなかった。この作品は多くの詩集のなかから、ロレンスの詩の全体を見通すことができるようにとの意図をもって、みずからも詩人である訳者によって編まれた選詩集である。

D・H・ロレンス(1885〜1930) 20世紀の英国で最も重要で、最も論議をよんだ作家のひとり。書記、教師をつとめたあとノッティンガム大学にはいり、短編を書き始め、「息子と恋人」で世に認められた。第一次大戦中は妻がドイツ系であったため疑惑と敵意の目でみられ、苦難のときを送った。代表作「虹」「恋する女たち」「翼ある蛇」「チャタレイ夫人の恋人」。遍歴のあと、最後はフランスのヴァンスで亡くなった。

立ち読みフロア
◆バルコニーの上で

黒ずんだ山々の前には、うすい 消えかかった虹のリボン、
それと私たちの間には、雷鳴が、
そして ずっと下の青い麦の中には、働らく人々が
黒い木の株のように立っている、静かに青い麦の中に。

あなたは私の近くにいる、サンダルをはいたあらわな足、
そして バルコニーのむきだしの木材の匂いの中で
あなたの髪の匂いをはっきりと感じとる、
いま しなやかな稲妻が天から落ちる。

氷河から出る うす緑の河の下《しも》
薄闇の中を行くボート――そして どこへ?
雷鳴がとどろく。だがなお 私たちにはお互いがある!
天空にあらわな稲妻はふるえ閃き
そして 消える――私たちはお互いのほか何があろう?
ボートは行ってしまった。


◆草を刈る若者

イザール河のほとり 四人の男が草を刈っている、
大鎌をふるうシュッシュッという音、四人の鋭い息づかいが
聞こえてくる、そうだ、そして
わたしはそこに秘められているものを悲しく思う。

四人のうち 草を刈っている第一の男は
わたしのひと、もう彼をわたしのものだと決めている、だが
あの若い脚で、これからぶつかる苦労も知らぬ様子を、
わたしは気の毒に思う。

昼飯を運んできたわたしを目にすると、
麦畑に肩まで隠れながら 彼はこちらを見る
鹿のように 誇らかに顔をあげ、
そして キラキラ光る大鎌の刃をぬぐう。

それから、大鎌の砥石《といし》をはずして 刈株をこえてわたしのところへ。
若者よ、あなたはわたしを身ごもらせた、
若いひとよ、あなたは一人前の男にならなければならない、
そう、だが、わたしはそういうあなたを気の毒だと思う。


◆大晦日の夜

いまはもう 二つのものしかない、
抉《えぐ》りぬかれた大きな漆黒の夜と
それから この暖炉の火。

この暖炉の火、果実の心《しん》、
そして 私たちは奥に包まれた
二つの熟した種子。

お聴き、闇が鳴りひびいているのを、
私たちの火をめぐりながら。
あなたの着物をぬぎなさい。

あなたの両肩、あなたの傷ついた胸!
あなたの乳房、あなたの裸身に
この火の衣!

あなたの足さきから 唇まで!
闇が絶えだえに ゆらめき退くときに、
火の輝きが押しよせ 躍動するときに。

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