レンズマン・シリーズ 2

「グレー・レンズマン」

E・E・スミス/小西宏訳

ドットブック版 311KB/テキストファイル 273KB

700円

キニスンの決死的活躍によって、銀河文明の敵、宇宙海賊ボスコーンの首領ヘルマスの基地はついに陥落した。だが、ヘルマスの身辺にあった謎の球体エネルギーから、キニスンはヘルマスよりもさら上部にある機関を予想し、その所在の確認に乗り出す。目標は「第二銀河系ランドマーク星雲」……宿命の対決のとき迫る!

E・E・スミス(1890〜1965)アメリカ・ウィスコンシン州生まれ。博士号を得ているため、E・E・《ドック》スミスと呼ばれるSF界の巨匠。「スカイラーク・シリーズ」で名を馳せ、金字塔「レンズマン・シリーズ」(全6巻)を雄大な構想のもとに完成させ、シリアスなハードSFの先駆者となった。

立ち読みフロア

一 第一の手がかり

 そこは星団AC二五七―四七三六からはるかに隔(へだ)たった、ある惑星である。その惑星の全表面をおおった軍事施設の中に、ヘルマス自身の基地に非常によく似た一つの要塞がいかめしくうずくまっていた。事実、その要塞はボスコーンを代表して命令する者の基地よりも、いろいろな点でまさってさえいた。それはより大きく、より強力だった。一つではなく多数のドームを持っていた。おまけに、それは陰惨(いんさん)で冷厳(れいげん)だった。なぜなら、そこの要員は、高度の知性を持っていることを除けば、人類とほとんどなんの共通性もなかったからだ。
 それらのドームの一つの中央には、キニスンの心をひどくなやましたあの球体のエネルギーと同じような球体が数個、特異な輝きを放っていた。そしてそれらの近くに、多数の触手を持った、形容を絶するような生物が、ゆったりとうずくまっていた。それはタコにも似ていなかった。からだじゅうにとげとげがあったが、ナマコにもまるで似ていなかった。からだにはうろこがあり、歯と翼を持っていたが、トカゲにも海ヘビにも、ハゲタカにもごくわずかしか似ていなかった。もちろん、このような否定的描写は、はなはだ不充分なものであるが、残念ながら、それがせいいっぱいなのである。
 この生物の全関心は、球体の一つの内部に集中されていた。その隠微(いんび)な機構は、ヘルマスの総基地で起こっているすべてのことを、ヘルマスの球体からこの生物の知覚へありありと伝達しているのだった。死体が散乱したドームがはっきり見えた。パトロール隊が外側から攻撃していることもわかっていた。あの神出鬼没(しんしゅつきぼつ)のレンズマンが、すでに総基地の要員を全滅させて、いまや内部から攻撃を加えようとしていることもわかっていた。
「きみは大きな誤りをおかした」生物は球体に向かって冷酷に無感動に思考を伝達していた。
「レンズマンはサブ・エーテル探知波中立器を完成していたにもかかわらず、きみは基地を救うのが手おくれになるまでそれに気づかなかった。きみはわしにも過失があると主張しているが、その主張には賛成できない。これはきみの問題で、わしのではなかった。わしは他に留意(りゅうい)すべき問題をかかえていたし、今でもかかえている。きみの基地はもちろん陥落した。きみ自身が生きのびられるか否(いな)かは、まったくきみの防御設備の適不適にかかっているのだ」
「しかし、アイヒラン、あなたは自分でこれが適当だといったではありませんか!」
「待ちたまえ――わしは、適当と思われるといったのだ」
「もしわたしが生きのびたら――というより、このレンズマンを撃滅したら――あなたの次の命令はなんです?」
「もっとも近い通信者に連絡して、われわれの兵力を動員せよ。そのなかばは、このパトロール艦隊と交戦せしめ、残余は太陽系第三惑星を一掃せしめよ。わしはこれらの命令を直接には伝達しようとしなかった。なぜなら、あらゆる通信ビームはきみの制御盤(せいぎょばん)に集約されているからだ。またたとえわしが彼らと連絡できたとしても、その銀河系の指揮官はだれも、わしがボスコーンを代表して通信していることを知らないのだ。それらの処置をおえたならば、わしに報告せよ」
「命令受領そして了解。ヘルマスより通信終了」
「制御装置を指示どおりに設定せよ。わしは観測し記録する。注意せよ、レンズマンが攻撃してくる。アイヒランより、ボスコーンを代表して通信。通信終了」
 レンズマンは突進した。彼が海賊のスクリーンに衝突するまもなく、彼自身の防御スクリーンは、半携帯式放射器のビームで白熱し、その閃光(せんこう)をとおして、高性能機関銃の金属弾が貫通してきた。しかし、レンズマンのスクリーンはほとんど戦艦のそれのようで、宇宙服もまたそれ相当に堅固だった。彼は自分の前進をむかえ撃っているビーム放射器にほとんど劣らぬほど強力な放射器を携帯していた。そこでキニスンは、わめきたてる機関銃と炎を吐く放射器との向こうにある、思考遮蔽されたヘルメット内の頭に、自己のあらたに強化された知力のありったけを集中して、わき目もふらずに前進をつづけた。
 パトロールマンはヘルマスの思考スクリーンに注意していたので、それがかすかにゆるんで一つの思考がにじみだし、あの奇妙な球体エネルギーに向けられたとき、たちまちそれに対処することができた。彼はその思考が一定の形をとりはじめるまえにそれをはげしく妨害し、スクリーンを痛烈に攻撃したので、ボスコーン人はスクリーンをとっさに密封(みっぷう)したが、さもなければたちどころに死んでしまっただろう。
 キニスンはもはやその球体エネルギーを恐れなかった。彼にはまだその正体がわからなかったが、たとえ、いかなる性質のものだろうと、思考によって操作され制御されることはわかった。だから、それは現在も無害だし、これからも無害だろう。なぜなら、もし海賊の首領が思考を放射できるほどスクリーンをゆるめれば、キニスンの知力で相手の思考を制御してしまうことができるからだ。
 レンズマンは頑強にじりじり接近して行った。磁力定着装置が定着した。鋼鉄(こうてつ)におおわれた二つの姿は格闘しながら、狂暴な自動ライフルの火線の中へごろごろころがって行った。キニスンの宇宙服は、もっとはげしい射撃にも耐えるように設計されテストされていたので、この火線に耐えることができた。そして彼は、この金属のあらしを無事にくぐり抜けた。しかし、ヘルマスの宇宙服は、ふつうの宇宙服よりはるかに堅固だったが、耐えることができなかった。こうして、ボスコーン人は死んだ。
 パトロールマンは推進器を噴射(ふんしゃ)させて立ちあがると、内部ドームを横断して制御盤の前に立ったが、一瞬、まごついたように立ちどまった。彼は巨大な外部ドームの防御スクリーンを制御するスイッチを切ることができなかったのだ! 彼の宇宙服は最高の防御力を目標に設計されていたので、ふつう宇宙服にはつきものの、デリケートな外部機構を備えることができなかった。現在、このような情況下でこの一人用タンクを抜け出すことは、思いもよらなかった。しかも時間はいまにも切れようとしていた。行動開始時刻まで、あと十五秒しかない。時刻の到来(とうらい)と同時に、銀河パトロール隊の大艦隊のあらゆる兵器が、このドームのスクリーンに向かって、強烈きわまる破壊力をそそぎかけるのだ。そのゼロ・アワーのあとでスクリーンをゆるめることは、彼自身が即座(そくざ)に不可避(ふかひ)的に死ぬことを意味していた。

……巻頭より

購入手続きへ    


*** 作品一覧へ *** ホームページへ ***