レンズマン・シリーズ 3

「第二段階レンズマン」

E・E・スミス/小西宏訳

ドットブック版 310KB/テキストファイル 254KB

700円

グレー・レンズマン、キニスンは、銀河文明の敵ボスコーンの本拠、惑星ジャーヌボンを撃滅したが、意外にも敵は超空間チューブを通じて、地球に大攻撃をかけてきた。宇宙海賊の根拠地を必死に探索するキニスンは、ついに奇妙な女家長制種族が支配する惑星で有力な手がかりをつかんだ。第二段階レンズマンに成長したキニスンは、第二銀河系の奥へと潜入をはかる。

E・E・スミス(1890〜1965)アメリカ・ウィスコンシン州生まれ。博士号を得ているため、E・E・《ドック》スミスと呼ばれるSF界の巨匠。「スカイラーク・シリーズ」で名を馳せ、金字塔「レンズマン・シリーズ」(全6巻)を雄大な構想のもとに完成させ、シリアスなハードSFの先駆者となった。

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一 召還(しょうかん)

「待て、若者よ!」アリシア人メンターの声なき声が、レンズマンの脳の奥でとどろいた。
 彼は足を宙に止めて、身ぶるいしながら立ち止まった。彼の注意がさっとわきにそれたことをその目から見てとるや、マクドゥガル看護婦長の顔はさっと青ざめた。
「おまえはこれまでにもしばしば、軽率で混乱した思考上の誤りをおかしたが、こんどのことはそれにとどまらない」深くとどろく声なき声はつづけた。「これは思考ですらない。地球人キニスンよ、われわれは、ときとしておまえに絶望する。思考せよ、若者、思考せよ! 知るがよい、レンズマン。おまえの思考の明晰(めいせき)さと、知覚力の正確さとに、銀河パトロール隊と銀河文明との全未来がかかっているのだ。過去におけるいかなるときにもまして、そうなのだ」
「『思考せよ』とはどういう意味です?」キニスンは茫然として叫び返した。彼の心は沸きたつように混乱し、感情は驚きと当惑と懐疑とでごった返していた。
 メンターは応えなかったので、グレー・レンズマンの心は数瞬のあいだ、せわしく回転した。懐疑は……不安に色づけされて……急激に反抗に変じた。
「おお、キム!」クラリッサは声をつまらせた。だれか見ている者があったとすれば、このふたりは、はなはだ奇妙な眺めだったろう。二つの制服姿がからだをこわばらせて棒立ちになり、看護婦長の両手はレンズマンの両手を握りしめている。彼女は彼と完全な精神感応状態にあったので、彼の心をかすめるどんな思考をも理解した。「おお、キム! あの人たち、わたくしたちにそんなひどいことをする権利はないわ……」
「権利なんかないとも!」キニスンは叫んだ。「クロノ神のタングステンの歯に誓って、ぼくはそんなことをするものか! きみとぼくと、ふたりは幸福になれる権利がある。ぼくらは……」
「ぼくらはどうだっていうの?」彼女はしずかにたずねた。彼女は、自分たちが直面しなければならないものを知っていた。そして、気の勝った女性だったから、彼よりも早くその事実に直面したのだ。「あなたは、たったいま出発したばかりだわ。わたくしもそうよ」
「そうらしいな」キニスンはむっつりといった。「いったいなぜ、ぼくはレンズマンでなければならないんだ? なぜただの市民でいられないんだ……?」
「それは、あなたがあなただからよ」娘はやさしくさえぎった。「キムボール・キニスン、わたくしの愛する人。あなたはそれ以外の者であるわけにはいかないんだわ」彼女は顔をきっと起こして、勇敢に自分と戦っていた。「それに、もしわたくしがレンズマンの配偶者にふさわしいとすれば、やはり、めそめそしてはいられないわ。こんなことは永久につづくわけじゃないのよ、キム。ちょっと長く待つ、ただそれだけのことよ」
 銀灰色の目が、金茶色の目をじっと見おろした。「QX(オーケー)、クリス? ほんとにQX?」その謎めいた質問の中に、どれほどの意味がこもっていたことだろう!
「ほんとよ、キム」彼女はびくともせずに彼の目を見かえした。まったくなんの恐れもなかったとはいえないまでも、彼女の心は決意に満ちていた。「とことんまで覚悟ができているわ。最後の一ミリまでね。どんな苦しみだろうと――どんな道を進まなければならないとしても、そのはずれまで――そしてまたもどってくるまで、すっかり片(かた)がつくまで。わたくし、ここにいるわ。さもなければ、どこかべつのところにね、キム。そして待ってるわ」
 男は心をはげまして息を深く吸いこんだ。ふたりは手をはなした――どちらも、自分たちのような性格の者には、肉体的接触が少ないほど無難(ぶなん)だということを、無意識的にも意識的にも知っていたからだ――そして独立レンズマン、キムボール・キニスンは問題を検討しはじめた。
 彼はその巨大な知力をふりしぼって、真剣に思考しはじめた。そしてそれにつれて、アリシア人がいおうとしたこと――いおうとしたにちがいないこと――がわかりはじめた。

……巻頭より

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