レンズマン・シリーズ 4

「レンズの子ら」

E・E・スミス/小西宏訳

ドットブック版 323KB/テキストファイル 268KB

700円

キニスンとクラリッサのあいだには1人の息子と4人の娘が生まれ、20年が過ぎた。このとき、惑星大統領の誘拐、「宇宙の地獄穴」など、不穏・不気味な現象が頻発するようになった。キニスンと第二段階レンズマンでさえ手を焼く、ボスコニアの最高種族エッドール人の反撃であった。特別な教育を受けた「レンズの子ら」は死闘を開始する

E・E・スミス(1890〜1965)アメリカ・ウィスコンシン州生まれ。博士号を得ているため、E・E・《ドック》スミスと呼ばれるSF界の巨匠。「スカイラーク・シリーズ」で名を馳せ、金字塔「レンズマン・シリーズ」(全6巻)を雄大な構想のもとに完成させ、シリアスなハードSFの先駆者となった。

立ち読みフロア

一 キムとキット――ふたりのグレー・レンズマン

 銀河調整官キムボール・キニスンは、地球産コーヒーの二杯目を飲みおえて、朝食のテーブルから立ちあがり、放心したようなようすでそこらを歩きまわった。二十年あまりの歳月は、彼をほとんど変化させなかった。体重は同じか、二、三ポンドへった程度だったが、肉づきは、たくましい胸や肩からいくらか下方に移っていた。髪はまだ茶色で、きっぱりした顔にはかすかにしわがあらわれただけ。彼は成熟(せいじゅく)して、若い男には知りえないような成熟意識を持っていた。
「キム、あなたいつから自分の心をわたくしにかくしておくことができると思うようになったの?」クラリッサ・キニスンはもの静かに思考をむけた。歳月はグレー・レンズマンに対してと同様、レッド・レンズマンにもわずかしか影響を与えていなかった。彼女はかつては華麗(かれい)だったが、いまや豊麗(ほうれい)だった。「この部屋は、娘たちにたいしてさえ思考遮蔽(しこうしゃへい)されているのに」
「すまない、クリス――そんなつもりではなかったんだ」
「わかっているわ」彼女は笑った。「自動的なのね。でもあなたは、もうまるまる二週間も思考遮蔽しているわ。意識してそれを除去しているときのほかはね。つまり、あなたは常軌(じょうき)を逸(いっ)しているのよ」
「信じられないと思うかもしれないが、わたしは考えごとをしていたんだ」
「わかっているわ。何を考えていたのか教えてちょうだい、キム」
「QX(オーケー)――きみの注文だからな。このところ、いたるところで異常なことが起こっている、不可解な事件だ――原因も不明」
「たとえば?」
「名づけうるかぎりのほとんどありとあらゆる陰険な悪虐行為(あくぎゃくこうい)だ。不満、精神異常、集団ヒステリー、幻覚、そういうものが、なんの原因も理由も存在していないように思われる革命や反乱を起こして銀河文明全体にわたって伝染する兆候があるのだ」
「まあ、キム! そんなことってあるかしら? わたくし、そんなことすこしも聞かなかったわ!」
「一般的には知られていないのだ。どの太陽系でも、そうした事件を単なる地域的現象と考えているが、じつはそうではない。銀河調整官は全銀河系に対して広汎な視野を持っているから、われわれのオフィスは、もちろん、そうした現象をだれよりも早く発見できるわけだ。われわれはそれを発見したので、芽のうちにつみとろうとした――だが――」彼は肩をすくめて苦笑した。
「だが、どうしたっていうの?」クラリッサは問いつめた。
「つみとれなかったのだ。われわれは調査のためにレンズマンを派遣したが、だれひとりとして手がかりさえつかめなかった。で、わたしは第二段階レンズマン――ウォーゼル、ナドレック、トレゴンシー――に、何をおいてもその疑問を解決してくれるようにたのんだ。彼らはすぐ仕事にとりかかった。追求し現在も追求をつづけている。手がかりはわんさとあるが、今までのところ、なんの成果も得ていない」
「なんですって? それは〈あの人たち〉でも解決できない問題だとおっしゃるの?」
「いままでのところは解決していない、というのさ」彼はうわの空で訂正した。「そしてわたしは『そう思うだけで腹がたってたまらない』のだ」

……巻頭より

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