レンズマン・シリーズ 5

「ファースト・レンズマン」

E・E・スミス/小西宏訳

ドットブック版 332KB/テキストファイル 275KB

700円

太陽系評議員バージル・サムスと銀河パトロール隊司令長官ロデリック・キニスンは、銀河パトロール隊の創設に懸命な努力をはらう。サムスは謎の惑星アリシアへおもむき、神秘な力をもつレンズを贈られて史上初のレンズマンとなった。だが、麻薬組織をあやつる北米のボス、モーガン上院議員は大統領選に勝って銀河パトロール隊を手中にしようと狙っていた……さかのぼって銀河パトロール隊創成期の危機を描くシリーズ第5弾!

E・E・スミス(1890〜1965)アメリカ・ウィスコンシン州生まれ。博士号を得ているため、E・E・《ドック》スミスと呼ばれるSF界の巨匠。「スカイラーク・シリーズ」で名を馳せ、金字塔「レンズマン・シリーズ」(全6巻)を雄大な構想のもとに完成させ、シリアスなハードSFの先駆者となった。

立ち読みフロア
 太陽系パトロール隊の総司令部で〈丘〉と呼ばれる大基地がある。訪問者はその中の、雑踏する中央研究所の構内を見とがめられずにとおりぬけ、電子光学ベンチにすわっている大きなノルウェー人の背後二メートルたらずに迫った。そして、自動ピストルを引き抜くなり、まだ気づかずにいるらしい科学者にむかって、できるかぎりの速さで七度引き金をひいた。二発は頭をつらぬき、五発は集中的に背骨をつらぬいた。
「ああ、エッドール人のガーレーンか。わたしに会いにくるだろうと思っていたよ。すわるがいい」ブロンドで目の青いネルス・バーゲンホルム博士は、弾丸に頭やからだを貫通されたことなど、いっこうに意に介さずに振りむくと、大きな片手でかたわらの椅子を示した。
「しかし、いまのは普通の弾丸ではなかったのだが!」訪問者はいまいましそうにいった。どちらの人間も――人間というより生物だが――周囲の人々がいま起こったことにまるで気づかずにいるのを、すこしも不思議としていなかったが、いっぽうが、自分の必殺の襲撃の失敗に驚いていることはあきらかだった。「あの弾丸は、おまえの肉体を発散させることができたはずだ――すくなくとも、おまえを出身地のアリシア星に吹きとばせたはずなのだ」
「普通とか普通でないということは問題ではない。すこしまえ、おまえはグレー・ロージャーのすがたを借りて、コンウェー・コスティガンにこういった。
『わしを殺そうとしても無駄だということをわからせるために、おまえにやらせたのだ』とな。
 わたしもそれと同じせりふをおまえにいおう。いいかなガーレーン、これを最後に思い知るがいい。おまえはもう、銀河文明の支持者にたいしてはその者がどこにいようと、直接行動をくわえることを許されないのだ。われわれアリシア人は、おまえたちがたくらんでいる両銀河系の支配を身をもってさまたげることはすまい。輝かしい銀河文明を到来させるためには、緊張と闘争が必要であるからだ――だから、おまえも他のエッドール人も、身をもって銀河文明の到来をさまたげることをすまい。おまえはエッドール星へもどって、そこにとどまるのだ」
「おまえたちがそう思うのか?」ガーレーンはあざけるようにいった。「おまえたちは、われわれを恐れるあまり、地球の年にして二十億年以上も、自分たちのことをわれわれに知らそうとしなかったではないか? われわれを恐れるあまり、両銀河系のどの惑星においても、おまえたちの文明の芽が破壊されるのを避けるために、なんの行動をもとらなかったではないか? おれを恐れるあまり、現在でも心と心の交流をしようとせず、こうした、のろくさくてまだるっこい口頭の連絡にたよっているではないか?」
「おまえの思考はあいまいで混乱しているが、まさか、それが本音とは思えない。してみると自分がばかだとわたしに信じこませようとしているのかな」バーゲンホルムの声は平静だった。
「わたしは、おまえがエッドール星へもどるだろうと思っているのではない。そうなるのがわかっているのだ。おまえもある事実を知れば、それがわかるだろう。おまえは口頭(こうとう)の言語を用いることに反対している。そうすることが、おまえの必死にさがし求めている知識を手に入れさせないようにするのに、もっとも容易で確実な方法だということを知っているからだ。われわれの二つの心の交流についていうならば、おまえたち全種族が、とうの昔に忘れてしまったことをグレー・ロージャーとして行動しているおまえが、思い出す前に、ちゃんと交流しているのだ。その出会いの一つの結果として、わたしはおまえの生命のパターンの外形や振動をすっかり学びとっていた。だからエッドールのガーレーンという肩書きでおまえに呼びかけることができた。しかるに、おまえはわたしについて、わたしがアリシア人であるという、はじめからわかりきった事実しか知らないのだ」
 ガーレーンはその場の情況を転換させようとして、それまで維持していた力場を解除した。が、アリシア人はそれをきわめて無雑作に受けとめたので、近くにいる人間は、なんの変化にも気づかなかった。


……冒頭より

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