「マクベス」

シェイクスピア作/大山俊一訳

エキスパンドブック 701KB/ドットブック版 130KB/テキストファイル 73KB

400円

 雷鳴とどろく荒野に突如あらわれた三人の魔女。魔女たちは凱旋中のマクベスと友人バンクォウに二人の運命を暗示する。その一つ「コーダーの城主になる」という予言が現実となったとき、マクベスの心は野心のとりことなる。マクベス夫人は夫をそそのかす。マクベスはダンカン王暗殺を皮切りにつぎつぎと悪事を重ね、友人バンクォウをも殺害する。だが、心の平静は失われる。マクベス夫人もおどろおどろした幻覚の虜となる。それにもめげず、マクベスは苛烈な闘いへと突き進む。緊迫感にみちた見事な悲劇。
立ち読みフロア
【マクベス夫人】 鴉(からす)までが嗄(しわが)れ声で鳴いている、
このわたしの城の胸壁の下、王ダンカンが死の入城をすると告げている。来たれ、お前たち悪霊ども、人間の悪しき思いにかしずく者よ、わたしをこの場で女でなくしてくれ、頭のてっぺんから爪先までこのわたしを恐ろしい残酷でいっぱいにしてくれ! わたしの血を濃くしてくれ、あわれみの心への通路となる血管を全部ふさいでくれ、自然の情からの後悔の念がこのわたしの恐ろしい意図を揺り動かし、わたしの意図とその実行のあいだの調停役となって目的達成を妨げぬように!
来たれ、このわたしの女の胸に! わたしのミルクを胆汁にしてくれ、お前たち人殺しの手先どもよ、お前たちは見えざる「実体」としていたるところで、「自然」の悪事に仕えているのだ。来たれ、濃い夜よ、地獄の黒煙(くろけむり)でお前をすっぽりと包んでしまってくれ、このわたしの剣が傷をつくってもそれが剣に見えぬように! 天が夜も毛布からのぞき見して「待て、待て!」と叫ばぬように!
 〔マクベス登場〕
【マクベス夫人】 偉大なるグラームズ殿! あっぱれコーダ殿!
そのいずれより偉大なお方、予言にいわく「将来は万万歳!」
現在は未来についてはまったくの無知ですが、あなたのお手紙はその現在をわたしに飛び越えさせました。そして今この瞬間、わたしは未来を感じています。
【マクベス】 わが最愛の妻よ、ダンカンが今宵やってくる。
【マクベス夫人】 そしていつここをお発(た)ち?
【マクベス】 明日朝、と考えているらしい。
【マクベス夫人】 おお! その朝を太陽が見ることは絶対にさせぬ!
あなたのお顔は、領主殿、たとえてみれば一冊の本、異例のことがあるのだと、すぐに読みとれます。世間をあざむくために、世間なみの顔をなさい。歓迎の気持ちを目に、手に、口もとに表わしなさい。表面では無心の花を装って、そしてその下では蛇となるのです。やがて来る客人にはしたくをしておかねばなりませぬ。そして今夜の大仕事は、すべてこのわたしの処理にお任せくださらねばなりませぬ。かくしてこれからのわれわれのすべての夜と昼とに、絶対の王権と支配権とがもたらされることになるのです。
【マクベス】 また話し合うとしよう。
【マクベス夫人】 もっと上を向いて何食わぬ顔を。万が一にも顔色を変えるということは、何かを恐れているしるし。そのほかはすべてわたしにお任せを。〔退場〕(第一幕第五場より)

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