「真夏の夜の夢」

シェイクスピア作/大山敏子訳

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400円

 アテネの町から少し離れたところにある森。妖精の住むこの森に二組の若い男女がやってくる。互いに愛し合いながら結婚を許されないライサンダーとハーミア。ハーミアを愛する青年ディミートリアス。その彼に片思いをするヘレナ。追いつ追われつ、夜の森の中を若い四人はさまよい、やがて疲れて眠ってしまったとき、いたずら者の妖精パックが登場。「ほれ薬」を男の目に注ぐのだが、相手をまちがえて、とんだ騒ぎがもちあがる。愛と幻想にみちたロマンティック・コメディ。
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【シーシュース】 ハーミア、何か言うことはあるかな? ようく考えてみるがよいぞ。お前にとって父親は神様のようなものだ。お前のその美しさを創り出したのも父親だ。そうだ、お前自身が父親によって印をおされたもの、封ろうで作られた型のようなものだ。そしてその型を残しておこうと消してしまおうと、すべて父親の意のままだ。ディミートリアスはなかなか立派な紳士だぞ。
【ハーミア】 ライサンダーもそうでございます。
【シーシュース】 もちろん、彼も立派な紳士だ。だが、今この場合にはお前の父親の承諾が得られない。だから、ディミートリアスのほうが彼より立派だということになる。
【ハーミア】 父が私と同じ目で見てくれたらと思います。
【シーシュース】 いや、むしろ、お前が父親の分別で物事を見る事ができればいいが。
【ハーミア】 どうぞ公爵様、こんな私をお許しくださいませ。私自身どうしてこんな大胆な申し上げかたをいたしておりますのかわかりませんし、このような場所で自分の考えをこんなにも強く申し上げますことが、私自身の慎(つつし)みにかなっているかどうかもわかりません。でもどうぞお願いでございます、公爵様、もしも私が、ディートリアスと結婚することをおことわりいたしましたら、どのような最悪の状態が起こってくるのでございましょうか?
【シーシュース】 そのような場合には、死刑に処せられるか、さもなければ永久に男と交わることなく僧院に入るかだ。だからハーミア、ようく自分自身の気持ちを確かめるがよい。お前がまだ若いのだということをわきまえ、若い情熱を考えてみるのだ。もしお前が父親のきめたとおりにしない時には、尼僧の服をまとって一生すごすことができるかどうか、永久にうすぐらい僧院の庵室に閉じこもって、かぼそい声で、何もこたえてくれない冷たい月に讃美歌をうたって、一生子を生まぬ尼僧の生活を送ることができるかどうか考えてみるのだ。かくのごとく、欲情をおさえて、処女(おとめ)のままで人生の旅路をつづける者はかぎりなく祝福される。しかし、蒸溜したばらの花のほうが――現世の考えでは――処女(おとめ)の茨(いばら)の上でそのままに枯れてゆく運命のもと、ただ一人の幸福の中に、成長し、生き、死んでゆくよりはさいわいなのだ。
【ハーミア】 そのように成長し、生き、死にたいと願っております、公爵様、私の魂が支配権を与えることを許さないような、望みもしないような束縛で私をしばろうとする人に、私の処女の特権を与えてしまうような事をするくらいならば。
【シーシュース】 しばらく落ちついてよく考えるのだ。次の新月の時までに――
わしとわしの恋人とが、末長い伴侶(はんりょ)としての
誓いをしっかりととり交わすその儀式の日までに――
その時までに、お前は父の命令に背いた罪によって死刑にされることを決心するか、それとも、お前の父の望みどおりディミートリアスと結婚するか、それともまた、処女(おとめ)の女神ダイアナの祭壇に向かって、永久に、厳格に自己を否定し、一生独身を誓うかを決めるのだ。
【ディミートリアス】 言うことを聞いてくれ、ハーミア。
ライサンダー、君の不自然な立場を捨て、ぼくの確かな権利をみとめてくれないか?
【ライサンダー】 君はハーミアのお父さんの愛をかち得た、ディミートリアス、だからぼくにハーミアの愛をくれ。君はお父さんと結婚すればいい。
【イジーアス】 口の悪い奴だな、ライサンダー! たしかにこの男はわしの愛を得た。そしてわしの愛情がわしのものをこの男にやるのだ。娘はわしのものだ、だから、彼女に関するわしの権利すべてを、わしはディミートリアスに与えるのだ。
(第一幕第一場より)

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