ポー/ミステリ傑作集

「モルグ街殺人事件」

ポー作/安引宏訳

ドットブック版 160KB/テキストファイル 109KB

300円

シャーロック・ホームズもルパンも、ポーの作り出した主人公デュパンから生まれたとさえ言われている。この巻にはデュパンが活躍するポーの推理小説の代表作「モルグ街殺人事件」、姉妹編「マリー・ロジェー事件の謎」、同じくデュパンものの「盗まれた手紙」の3編を収めた。エキスパンドブックにはウィリアム・シャープの版画を収録してある。

エドガー・アラン・ポー(1809〜49) ボストン生まれ。両親を早くに亡くし、タバコ輸出業者ジョン・アラン家の養子となる。合衆国陸軍や雑誌編集などの仕事のかたわら、詩や小説を発表。30歳ごろから「アッシャー家の崩壊」「モルグ街殺人事件」などの代表作をつづけさまに世に送り名声を得た。しかし次第にアルコールに溺れ、1849年、ボルチモアの酒場の前で泥酔状態で倒れているところを発見され、ほどなく死去した。

立ち読みフロア
  分析的といわれている精神機能は、それ自身は、ほとんど分析をゆるさないものである。われわれはそれらをただ結果においてのみ理解する。われわれがそれについて、とりわけ知っていることは、その機能が、過度に所有されている場合は、所有者にとっては、このうえなくいきいきとした楽しみの源であるということである。ちょうど強健な人がその肉体的能力を得意として、筋肉を活動させる運動をよろこぶのと同じように、分析家ももつれを解きほぐす精神的活動を夢中になってよろこぶ。どんなつまらない仕事でも、彼の才能を発揮させてくれるものから、楽しみをひきだす。謎や難問や象形文字などが好きで、しかもそれらを解く場合、普通の人の理解力には超自然的と思えるような鋭敏さを示すのである。その結果は、神業(かみわざ)ともいうべき方法によってもたらされたものであるが、まったく直観というようなおもむきがある。
  分析の能力というものは、おそらく数学的研究、ことにただその逆行的作業のために、不当にもあたかも一段とすぐれているかのように、解析学(かいせきがく)とよばれている高等数学の研究によって、非常に発達させられるであろう。だが、計算することは本来分析することではない。たとえばチェス指しは計算はするが、分析しようとはしない。したがってチェス遊びは、知的能力に影響を与えるというような点において、ひどく誤解されているのである。私は今ここで論文を書いているわけではない。ただ、いくらか風変わりな物語の前書きとして、とりとめのない意見をのべているだけである。
  だから、この機会にはっきり言っておきたいのは、思索的な知力の高度の能力を鍛練(たんれん)するのは、あの手のこんだたわいのないチェス遊びよりも、地味なドラフツ(チェッカー遊び)のほうがずっと確実であり、また有効であるということである。チェスでは、駒がさまざまな≪奇怪な≫動きかたをし、その強さもまちまちで、さまざまに変わるので、ただ単に複雑にすぎないのが、何か深遠なものであるかのように誤られる。≪注意力≫がここでは強く働かされる。そいつが少しでも衰えると、見落としをして、痛手をうけるか、負けてしまう。駒の動きが多様であるばかりでなく、複雑なので、こういう見落としの機会がますます多くなる。そして十中の九まで、勝負に勝つのは鋭敏な人間よりも集中力の強い人間ということになる。

……《モルグ街殺人事件》より


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