「日本の民話(九州編)」
 

藤澤衞彦著

ドットブック版 169KB/テキストファイル 72KB

400円

九州と沖縄地方に伝わる代表的な昔ばなし23編を集めました。長崎2編、佐賀3編、福岡3編、熊本3編、大分3編、宮崎2編、鹿児島5編、沖縄2編の全部で23編の、地方色のいろどり豊かな昔ばなしばかりです。「彦一」や「吉四六(きっちょむ)」も、もちろん含まれています。

藤澤衞彦(ふじさわもりひこ)(1885〜1967)東京生まれ。明治大学教授。風俗史・民俗学・伝説学・児童文学など、幅広い分野で研究に従事した。日本風俗史学会、日本アンデルセン協会、日本児童文学者協会など多くの学会・協会の設立、育成を手がけ、児童文化図書館長、日本伝説学会会長などを歴任した。主な著書に『日本伝説研究』『日本民謡・童謡研究』などがある。

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お米亀(くず)

 むかしむかし、ある正直で貧乏な爺さんが、初秋のある日、海岸の道を歩いてゆくと、子供らが集まって、一匹の亀を縛(しば)りにかけて、いじめていました。正直爺さんは見かねて、
「その亀、わしに、ゆずってくれや」
 といって、持ってるだけの銭をなげだしました。すると、子供たちがみんなして、正直爺さんをみつめましたので、
「なんでね、わしの顔に、なにか書いてあるかね」
 と言いますと、子供の一人が、
「いんや、でも、この亀もう、首ィしめてあるのだよ、じき死んでしもう、お爺さん貧乏だのに、銭だして、それでもいいかね」
 と言います。
「いいともね、首ィしめてある綱(つな)ァゆるめてやるさ、死ぬか死なないかは寿命じゃないか」
 お爺さんがつれて帰って、酒のましたら、さいわいと助かったので、そのまま飼っていました。
 その年の暮のことでした。貧乏なお爺さんは、《もうすぐお正月だというのに、わしの家には、どんな新しいことがくるのじゃ、といって、なにも、よそをうらやみ、そねむこともないが、おらが不甲斐(ふがい)なしで、年越しの米の用意もできそうでないのが、おもやァ、婆さんに気の毒というものじゃ》と口ン中で、つぶやいて、思わず、なげきをうたにして歌いました。

 鶴柴(つるしば)もろもか
 とったいど
 なんでなんで
 年ァ取ろかい。

 すると、お爺さんの歌のなげきに、返事の歌を歌いつぐものがあります。

 お米でさい
 お米でさい。

「そのお米がなくて、思案(しあん)にくれておるのじゃが。いったい、《お米でさい》うたうは誰さんかね」
 そういって声のする方を見ましたが、誰もおりません。それで、お爺さんは、今の《お米でさい》は気のせいかと思って、もういっぺん、

 鶴柴もろもか
 とったいど
 なんでなんで
 年ァ取ろかい

 と歌ってみました。すると、すぐ、

 お米でさい
 お米でさい

 と、たしかに、返事歌(へんじうた)をうたうものがありますので、よくよく、その方をみますと、飼っていた亀でしたので、お爺さんは、ふしぎがって、
「こん亀(くず)ァものをいいますぞ、お婆さん」
 とお婆さんにいいますと、どうじに、
「こん亀(くず)ァものをいいますぞ、お爺さん」
 と、お婆さんもびっくりして、お爺さんに言いかけました。すると亀は、
「お爺さん、お婆さん、こん年は、亀(くず)が年を取らしますで、長者さまの家に連れていって、《こん亀ァものをいいます》と披露してください。長者さまァ、きまって、《そんなことあるものか》といいますから、すぐと、《こん亀、ものをいいましたら、どうしますかい》といいなされ。すれば、長者さまァ、《言うたら米を一倉(ひとくら)やりましょう》という。その約束で、お爺さん《鶴柴もろもかとったいど》をうとうてごろうじ、亀(くず)がもの言うて、すぐ、あとをつけて歌います」
 と言います。
「それはいい、やってみるか」
 と、お爺さんは元気づいて、お婆さんと、ともども、亀をつれて、長者さまの家にやってきました。


……冒頭より


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