「日本の民話(関東編)」
 

藤澤衞彦著

ドットブック版 244KB/テキストファイル 119KB

600円

関東地方に伝わる代表的な昔ばなし40編を集めました。東京17編・神奈川5編・埼玉8編・千葉5編・茨城2編・栃木2編・群馬1編からなります。

藤澤衞彦(ふじさわもりひこ)(1885〜1967)東京生まれ。明治大学教授。風俗史・民俗学・伝説学・児童文学など、幅広い分野で研究に従事した。日本風俗史学会、日本アンデルセン協会、日本児童文学者協会など多くの学会・協会の設立、育成を手がけ、児童文化図書館長、日本伝説学会会長などを歴任した。主な著書に『日本伝説研究』『日本民謡・童謡研究』などがある。

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メジロおし

 メジロが、飛んでいきました。
 子供たちは、メジロの飛んでいく方を見ながら、からかい童謡(どうよう)をうたい出しました。

 めっかちメジロが巣(すう)くった
 とるべえと思ったら おっこった
 拾(ひろ)うべえと思ったら ふんづけた

 ふっと思いついたように、一人の子供は、急(いそ)いでかけ出し、板塀(いたべい)によりかかって、
「メジロおしするもの、よってきな。メジロおしするもの、よってきな」
 と、みんなに呼びかけました。
「いれておくれ」
「いれとくれ」
 てんでに、かけて来て、板塀に集まりました。
「うん、うん」
 みんなは、すぐと、メジロおし遊びをはじめました。遊びをいい出した子を中に、みんなは、板塀によりかかって、右から、左から、肩(かた)で、ぐんぐん押していきました。あんまりおすので、中の子がおし出されました。おし出された子は、また、列(れつ)のはしに加(くわ)わって、あらためて、おしていきます。また、中の子がはみ出されました。その子も、列のはしに加わって、おしていきます。
「おせおせ、おし出せ、メジロおし」
 おもしろがって、みんなは《押しくら》しました。
「メジロおしって遊び、メジロの鳥からおそわったんだぜ」
 と、年上の子が、いい出しました。
「へえ、メジロは、むかし、遊びの先生なの」
 眼をまるくして、一人の子が聞きました。その間に、その子は、肩を、板塀にくっつける力を抜(ぬ)いたので、列からすぐおし出されてしまいました。
「ずるいや、いま、話し中じゃないか」
「それなら、なぜ、《たんま》〔おや指と人さし指で環をつくって、遊びを中断することを知らせる、遊びのしきたり〕っていわないんだ」
「そうそう。だが、ちょっと休もう。そして、その間に、メジロのお話をしてあげるよ」
 と、年上の子がいいました。
「昔々、一人のおじいさんが山に行きました。とぼとぼと山道をのぼって行く途中(とちゅう)、おじいさんは、とある木の枝(えだ)に、たくさんの小鳥がとまって、休んでいるのを見つけました。
 おじいさんは、なんとまあ、たくさんの小鳥が、仲(なか)よくならんでいることだろうと、よくよく見ると、その小鳥は、みんな眼が白かったので、おじいさんは、たまげて、世の中には、めずらしい小鳥もいるものだ。これから、この眼の白い小鳥を、メジロと呼びましょう。そういって、里にかえると、里の人たちに、その話をして聞かせました。
 あくる日、その眼の白い、めずらしい鳥の、メジロを見たいという人たちをつれて、おじいさんは、きのう見おぼえておいた木のところへ、やってきました。ところが、その時は、ぱちんと黒い眼をあけて、メジロは、メジロおしをして遊んでいたというのです。おどろいたのはおじいさん。たしかに白眼のはずだったのに、いつのまに黒眼になったかと、よくよく見なおしているうちに、気がついたのは、この鳥は、くちばしのつけ根から、眼がしらに向(むか)って、一本の、黒い色の線(せん)のあることでした。なあるほど、きのうは、あの黒い線のために、眼のふちの白い線のはしが切れて見えたのだ。そうだ、あの時は眼をつぶっていたのだ。眼をつぶれば眼玉がかくれる。そして眼のふちの白い色の毛が、よりあって、白い眼のように見える。(つづく)

……東京の民話より


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