「地底世界ペルシダー」

E・R・バローズ/佐藤高子訳

ドットブック版 209KB/テキストファイル 131KB

500円

バローズの傑作古典SF「地底世界ペルシダー・シリーズ」登場! 鉱山主イネスとベテラン技術者ペリーは新開発の掘削機「機械モグラ」で実験旅行に出発。だが、コントロール不能におちいった掘削機は、地殻をつらぬいて地球の中心にむかって直進するはめに! だが驚くべきことに、地球の内部は空洞をなし、不思議な世界をつくっていた。地底には住人がいて、残虐な爬虫類と死闘をくりひろげていた!

エドガー・ライス・バローズ(米、1875〜1950)シカゴ生まれ。75歳で亡くなるまでに、20冊あまりのターザン物、10冊の「火星シリーズ」をはじめ、金星や月や地底やアメリカ西部を舞台にした数多くの小説を書き、大人気作家となった。その作品の多くは今日でも「一服のよく効く清涼剤」として延々と読みつがれている。

立ち読みフロア
プロローグ

 まずはじめにご承知おき願いたいと思うことは、私がこの物語を読者に信じていただこうと期待していないということだ。この前、ロンドンに出張した折、私は相手の見境もなく、王立地質学会の特別会員を掴まえてこの物語のあらましをとくとくとして語ってきかせたのだが、その折に私がどんな体験をしたかを諸君がごらんになっていたら、私がこういうのもしごく当然だとお思いになるだろう。
 あの時あの場に居合わせたら、諸君は私がおそれ多くも国王陛下のコーヒーに一服盛り奉ったとか、あるいはロンドン塔から王家の表章を盗み出したとか、何かそういった大それた犯罪を冒してそれが露見したためにあんな仕打ちを受けているのだなと解釈されたにちがいない。
 私が物語を打ち明けた当の博学の紳士は、話が半分もおわらない先に凍りついたようにすくんでしまった! ――もっともそのおかげでその紳士はかろうじて爆発するところをまぬかれたのだが――かくて王立地質学会の名誉会員となり、勲章を授かって栄誉の殿堂に不朽の名を留めるという夢は、かの紳士の北極の冷気にも似た峻厳な態度の前に、はかなくも消え失せたのだった。
 とはいうものの、私自身この物語を信じている。諸君にしても、王立地質学会のあの博学の士にしても、私にこの物語を語ってきかせた当の男の口からじかに聞いていたら、おそらく信じていただろう。私のように、あの灰色の瞳に宿る真実の焔を目《ま》のあたりにし、あの穏やかな声の奥に誠実のひびきを聞き取り、物語の底に終始一貫して流れるペーソスを汲《く》みとっていたら――諸君もきっと信じておられたにちがいない。私が目のあたりにしたあの世にも無気味な嘴口竜《ランフォリンクス》のような怪物――その男が地底世界から持ち帰った怪物――を、決定的証拠として目で見て確かめるまでもなかったろう。
 私が彼に遭遇したのは、あの広大なサハラ砂漠のはずれのことで、まったく予期しない不意の出会いだった。小さなオアシスの中の棗椰子《なつめやし》の木立の中央に羊皮で作ったテントがあって、その前に彼はつっ立っていた。すぐそばには八つか十ばかりのテントが集ってできたアラビア人のテント部落があった。
 私は北方からライオン狩りにやって来たところで、砂漠の現住民を十二人ほど連れていた――つまり私はただ一人の「白人」だったわけだ。われわれ一行が、わずかばかりの緑草地に近づくと、その男はテントを離れて、小手をかざしてわれわれの方を喰い入るように凝視した。そして私の姿を見つけると、あたふたと進み出てわれわれ一行を迎えた。
「白人ですね!」男は叫んだ。「ありがたい! もう何時間もあなたがたを見張っていたんですよ。こんどこそ白人がいるだろうと、はかない望みを抱いてね。今日の日付を教えて下さい。今は何年なんですか?」
 私が教えてやると、男は顔面をしたたか殴られでもしたようによろよろと倒れかかり、私のあぶみ革をつかんでかろうじて身体《からだ》を支えた。
「そんなバカな!」ややあって男は叫んだ。「そんなバカな! ねえ、後生だから今のはまちがいか、ほんの冗談だったっていって下さい」
「ぼくは、ほんとうのことをいってるんですよ」私は答えた。「そんな、たかが日付くらいのことで、知らない人をだましたり、だまそうとしたりして何になります?」
 しばらくの間、彼はうなだれたままで黙然とつっ立っていた。
「十年か!」ついに彼はつぶやくようにいった。「そうか、十年も経《た》っていたのか、それなのにわたしはせいぜい一年くらいだと思ってたんだ!」
 その夜、男は身の上話をきかせてくれた――それをここに思い出せる限り彼が話した通りのことばでお話しようと思う。


……冒頭より

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