「高慢と偏見(上・下)」

ジェーン・オースティン/伊吹千勢訳

(上)ドットブック版 156KB/テキストファイル 147KB

(下)ドットブック版 146KB/テキストファイル 136KB

各400円

原書テキスト版 (上)151KB(下)140KB(各300円)

「イギリスの田舎に生れたこの牧師の娘の小説の世界は、たしかに狭いもので、それは十八世紀後半の田舎紳士階級の世界である。しかしその小宇宙の中に、なんという緊張、なんという葛藤が行われていることか!」(レイモン他)…冒頭のベネット氏夫妻の会話はすでに、この日常的な緊張をはらんでいる。皮肉の達人といわれるオースティンの代表作。

ジェーン・オースティン(1775〜1817)英国ハンプシャーに牧師の娘として生まれる。結婚せず外面的には平凡な生涯を送ったが、創作意欲は旺盛で平穏な日常生活のなかに展開するドラマを的確な人物描写によって描き上げた。「分別と多感」「高慢と偏見」「エマ」「説 きふせられて」など六つの作品で知られる。モームは「高慢と偏見」を世界十大小説の一つとして挙げた。

立ち読みフロア
 独身で相当の資産のある男性は当然細君が必要であるというのは世間一般にみとめられた真理であります。
 この真理は人々の胸中にがんとして根をはっていますのでそのような資格をそなえた男性が近所に引っ越してきますと、その考えにも気持ちにもおかまいなく、その男性はそこら近所の娘のたれかかれかの正当な所有物としてみなされるのであります。
「ねえ、あなた、ネザーフィールド・パークはとうとう借り手がついたそうですね。おききになりました?」ある日のことベネット氏の細君は話しかけました。
 ベネット氏はきいていないと答えました。
「でもそうなんですのよ。ロングの奥さんがついさっきいらしてすっかり話してくださいました」と細君がかえします。
 ベネット氏は無言。
「借り手のことがおききになりたくないの?」と細君はじりじりします。
「そちらが話したいのだろう。きくのは差しつかえないさ」誘いはこれでじゅうぶんでありました。
「それがね、あなた、ロングの奥さんのおっしゃるには北部出身の、若くて、お金持ちのかただそうですよ。月曜日に四頭立ての馬車でみにいらしたんですって。すっかり気に入ってモリスさんとの話し合いもとんとん拍子で決まったそうですわ。ミカエル祭まえにうつってくる予定で来週のおわりまでには召使が幾人かくるそうです」
「名まえは?」
「ビングリー」
「細君もちかね、それとも独身?」
「独身ですのよ、もちろん。金持ちのひとり者、一年四、五千ポンド、うちの娘たちにまたとない縁組みですわ」
「はてね、娘たちに何か関係があるのかい?」
「ほんとうにあなたったらじれったいかたね、あのかたが娘のひとりと結婚することを考えているのですわ」
「そんな下心をもってやってくるのかい?」
「下心ですって! まあばかばかしい。よくそんなことをおっしゃれるわね。しかし娘のだれかを好きになるなんてありそうなことですわ。だからうつっていらしたらさっそくおたずねしてくださらなければね」
「その必要はみとめないね。おまえと娘たちでゆくがいい。それとも娘たちだけをやるか? そのほうがいいかもしれないね。おまえは娘たちにおとらず美しいからビングリー氏はおまえをいちばん好きになるかもしれないからな」
「まあお世辞のよろしいこと。たしかにわたしだってきれいだったこともありますわ。しかし今はもうたいしたことはありません。大きな娘が五人もいたらもうじぶんの器量などにかまけてはいられませんわ」
「そのときになればかまけるほどの器量もなしかね」
「でもね、あなた、ご近所にいらしたらぜひビングリーさんをおたずねしてくださいまし」
「その約束はできかねるね」
「娘のためですわ。たいした結婚相手ですもの。ルカス家のおふたりだってそのためだけで訪問するご決心ですわ。ふつうはよそものは訪問はなさいませんでしょう。ぜひいらしてね。あなたがいらしてくださらないとわたしたちはおたずねできませんもの」
「それは礼儀にこだわりすぎるというものだ。ビングリー氏は喜んでおまえたちに会ってくださるよ。わたしも一筆ことづけてどの娘をおえらびになっても、心から喜んでお受けするむねを書いておくよ。だがリジー推せんのひと言を書き加えるかね?」
「そんなことはなさらないでいただきたいわ。リジーはほかの娘たちにくらべてちっともまさってはいません。ジェーンの半分もきれいではないし、リディアのように気さくではないし、それなのにあなたはいつでもリジーにひいきをなさいますね」
「どれをとってもどんぐりのせいくらべ、そんじょそこらの娘同様ばかで物知らずだがね、リジーだけはなかなか頭のするどい子だよ」
「よくそんなにごじぶんの子供のわるくちをおっしゃれるわね、あなた。わたしを苦しめるのがおたのしみなのでしょう。わたしの神経過敏症を全然同情してくださらないのね」
「それは誤解だよ。おまえの神経には深甚な尊敬をはらっているよ。なにせつきあいが長いのだから。少なくともこの二十年間というもの思いやり深く話すのを毎度きかされたものだよ」
「あなたにはわたしの苦労などとてもおわかりにならないわ」
「まあまあその苦労にうちかってせいぜい長生きしておくれ。年収四千ポンドの若い男がたくさんやってくるのをみとどけておくれよ」

……第一章冒頭


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