「高慢と偏見(下)」

ジェーン・オースティン/伊吹千勢訳

エキスパンドブック 242KB/テキストファイル 136KB/原書テキスト版 (上)151KB(下)140KB(各300円)

400円

ジェーン・オースティン(1775〜1817)
英国ハンプシャーに牧師の娘として生まれる。結婚せず外面的には平凡な生涯を送ったが、創作意欲は旺盛で平穏な日常生活のなかに展開するドラマを的確な人物描写によって描き上げた。「分別と多感」「高慢と偏見」「エマ」「説得」など六つの作品で知られる。モームは「高慢と偏見」を世界十大小説の一つとして挙げた。
立ち読みフロア
 ダーシー氏からこの手紙を手わたされたとき、エリザベスは今いちど申し込みを受けようなど期待はしませんでしたが、またその内容は見当のつけようもありませんでした。ところで事実はこのようなものであったので息もつかずに読みすすんだことは想像できます。そしてどんなに相反した激情がまきおこされたことか。エリザベスの感情はどうとも決めがたいものでありました。謝罪のよちがあると彼が信じていることはまず驚きを感じさせました。そしてあくまでも彼の弁解など恥を知る人ならかくしておきたいものだと信じこんでいました。その言葉のひとつひとつに偏見をいだいてネザーフィールドのできごとについての説明から読みはじめたのでした。あまりに熱心になりすぎて理解力がなくなるほどでした。次には何が書いてあるかとあせるために目のまえの文の意味に注意を向けることができなくなるほどでした。姉に気がないと信じたという言葉をただちにうそと断定し、あの縁組みに対する真の難点で最悪のものの説明をきいてはあまりに腹が立って彼のいい分に耳をかそうという気もおこらないほどでした。じぶんのしたことに対してエリザベスに納得のゆくほどの後悔はまったくあらわれていず、罪を悔いるものの文体ではなく傲慢不遜でありました。すべては高慢であり無礼でありました。
 しかしこの問題の次にウィカム氏のことが出てきますと――この場合にはいくぶん明晰な注意力をもちえたのですが――いろいろなできごとがのべられており、それはもし真実であればウィカム氏を立派な人物と考えていた評価はまったくくつがえされることになるものでした。しかも彼自身がのべた身の上話と気がかりなほどよく似ているのでエリザベスの感情はもっと痛みがはげしく定義するのはいっそう困難でありました。驚愕、憂慮、恐怖さえも彼女を圧しつけました。エリザベスはそれを信じるに足りないものとしてくりかえし「これは虚偽にちがいない! こんなことはありえない! とんでもない虚言にちがいない!」と叫びまったくいっしゅうしたかったのでした。最後の一、二ページはほとんど内容もわからないほど興奮して手紙を読みおえましたが、それからいそいでこれをしまい、わたしはこんなものは気にかけまい、二度とみるものかと心にちかいました。
 このように心をかきみだされて何事にも考えを集中することのできないままに歩きつづけました。がしかしみないという決心はすぐやぶれました。半分もたたないうちに手紙はひろげられ、できるだけ気をおちつけてウィカムに関する部分を熟読し、あらゆる文の意味を吟味してみるのでありました。ペンバレーの家族とウィカムとの関係に関する話は彼自身が話したこととまったく一致しました。先代のダーシー氏の親切は今まではそれがどの範囲に及ぶものかは知らなかったのでしたが、ウィカム自身の言葉と合致しました。そこまではおたがいの話は真に符合しているのでしたが、ことが遺言のこととなると相違がはなはだしくなりました。ウィカムがあの寺録について語った言葉はまだ記憶にあらたでありました。その言葉をそのまま思い出しながら、こちらかあちらかどちらかがひどい二枚舌を使っていることを感じないではいられなかったのでした。二、三分の間は、ウィカムの言葉が真実であってほしいと思う希望のとおり、事実彼の言葉にまちがいでないと心ひそかに信じるのでしたが、しかしよくよく注意して二度、三度と読みかえしてゆくうちにすぐつづいて書かれた、ウィカムが寺録に対するすべての権利を辞退してそのかわりに三千ポンドという巨額を受けとったという詳細を読むと、ふたたびためらいを感じられないではいられませんでした。手紙をおいてじぶんでは公平無私と思う態度でいちいちの事情をしんしゃくし、おのおのの話のどちらがたしからしいかと慎重に考えてみたのでしたが、なかなかうまくまいりませんでした。双方のがわでただ主張するだけだったからです。ふたたび読みつづけていきました。今まではいかに考えてもダーシー氏のこの事件でのやり方は、破廉恥という以外にいいあらわしようもないものと信じきっていたのですが、ある方向の転換でまったく無罪となるのでありました。

……第三十六章冒頭


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