「リチャード3世」

シェイクスピア作/大山俊一訳

エキスパンドブック 678KB/ドットブック版 145KB/テキストファイル 110KB

400円

 醜く生まれついたリチャード・グロスターは、自分を呪い、世の中を呪い、あらゆる権謀術数を弄して、野心と復讐心にもえてつぎつぎと悪事を重ねる。妻を殺し、友を殺し、部下を殺し、幼い皇太子兄弟を殺し、国王にまでのぼりつめる。だがリチャード三世はつねに孤独である。彼のそばに現われては呪いの言葉を投げかける故ヘンリー六世王妃マーガレット、彼に肉親を殺され嘆きと悲しみのなかに沈む人びとの呪詛。近代的悪人像を描くシェイクスピア史劇の傑作。
立ち読みフロア
 〔グロスター公リチャード登場〕
【グロスター】 待て、お前たち、そのかついでいる柩(ひつぎ)を下ろせ!
【アン】 いったいどこの邪悪な魔術師がこんな悪魔を祈り出したのか、この聖なるご葬儀の邪魔立てをさせようとして!
【グロスター】 げすどもめ! その柩を下ろすのだ! さもなくば、聖パウロに誓って言うが、言うことをきかぬやつは血祭りにあげるぞ!
【警護の士】 閣下、どうぞ道をおあけください、柩を通してください。
【グロスター】 不作法きわまる犬どもめ! とまれと命命したらとまるのだ。その槍の尖先(きっさき)をもっと上へあげろ! さもなくば、聖パウロに誓って言うが、みんなこの足元にたたきのめして、思いきり踏みにじってやるぞ! 乞食どもめがこしゃくな真似をしおって!
 〔柩かつぎたち柩を下ろす〕
【アン】 おや、ふるえているのですか? みんなこわいのですか? いや、あなた方をとがめることはやめましょう。みんな生身の人間なのだから。生身の人の目が悪魔に耐えるはずがない。消え失せよ、おのれ恐ろしい地獄の使い魔め! お前の力がおよんだのは王の生身の体だけ、王の御霊(みたま)まで手に入れることはできない。とっとと消え失せよ!
【グロスター】 おやさしい聖者! ご慈悲です、そんな残酷なことは言わないでください。
【アン】 汚らわしい悪魔! 後生だから、われわれの邪魔をしないで消え失せよ。お前はこの地上の楽園を、お前の支配する地獄としてしまった。恐ろしい呪いの言葉と苦しい叫び声でいっぱいにしてしまった。もしもお前の無道のふるまいを、その目で見て楽しみたいと言うのなら、お前自身の手になったこの虐殺のお手本をとくと見るがよい。おお皆さん、ご覧なさい! 亡くなられたヘンリー王の傷口が血でかたまった傷口が大きな口を開けて、また血を吹いています! 恥を知れ、恥を! この汚らわしいできそこないのかたわ者! ただの一滴の血も残っていない冷たい、空(から)の血管から、このように血が吹き出るのは、お前がここにいるからに違いない。天をも人をも顧みないお前の残酷きわまりない行ないが、不思議このうえないこの血潮の大洪水を招いたのだ。
おおこの血を造りたもうた神よ、なにとぞ王の死に復讐あらんことを!
おお、この血を吸い込む大地よ、なにとぞ王の死に復讐あらんことを!
天よ、稲妻の一撃で、この人殺しを打ち殺してください! さもなくば大地よ、口を大きく開けて、この男を生きたまま丸呑みにしてください、ちょうどこの男の地獄腕が切りさいなんだ聖君主、故ヘンリー王の血をいま呑みこんでいるように!
【グロスター】 奥方! あなたは慈悲のルールというものをご存知ない。悪には善をもって、呪いには祝福をもって報いるべきです!
【アン】 悪党! お前は神の掟(おきて)も人の掟もわきまえていない。いかにどう猛な野獣でも憐れみのかけらぐらいはあるものを!(第一幕第二場より)

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