「ロミオとジュリエット」

シェイクスピア作/大山敏子訳

エキスパンドブック 659KB/ドットブック版 136KB/テキストファイル 91KB

400円

運命の悲しい星の下、敵同士の家に生まれたロミオとジュリエット。夜のやみにまぎれてしのび込んだロミオはバルコニーのジュリエットと愛の言葉をかわし、ロレンス神父の助けを借りてひそかに結婚の約束をとりかわす。おりもおり、ロミオはジュリエットの従兄ティパルトを殺し、追放されてしまう。ジュリエットの両親は娘の夫にパリス伯爵をえらび、結婚の日も定められる。苦肉の策として神父はジュリエットに「眠り薬」を与え、仮死状態のジュリエットは結婚式当日墓場へ運ばれた。神父の計画は墓の中でジュリエットが目ざめるころに、ロミオをそこに呼びよせて二人の結婚を成就させることであった……あまりにも有名なシェイクスピアの恋愛悲劇。
立ち読みフロア
【ジュリエット】 このように夜の闇にまぎれて私の秘密を立ち聞きするあなたは、いったいだれなのですか?
【ロミオ】 だれかと名まえを聞かれても、なんとあなたに名乗ってよいかわからないのです、わたしの名まえは、なつかしい聖者さま、わたしには憎いものなのです。なぜならば、それはあなたの敵だからです。それが紙に書いてあるものなら、やぶいて裂いてしまいたい。
【ジュリエット】 あなたのおことばをまだ百語とは聞いておりませんが、私の耳はそのひびきをはっきりと聞き分けることができます。あなたはロミオ様、モンタギュー家のかたでしょう?
【ロミオ】 美しい聖者さま、それがおきらいなら、そのどちらでもありません。
【ジュリエット】 どうしてここへおいでになりましたの? なんのために? 庭の塀は高くて、登るのもむずかしゅうございますし、そして、あなたのご身分を思えば、もし私の家の者があなたを見つけたら、この場所は死も同然ではございませんか。
【ロミオ】 恋の軽い翼でわたしはお庭の塀をとびこえて来ました。石の垣も恋を閉めだすことなどはできません、恋はできることなら、どんなことでもするものなのです、だからあなたの身内のかたなどがなんで邪魔になりましょう。
【ジュリエット】 もしあの人たちがあなたを見つけたら、きっとあなたを殺します。
【ロミオ】 いえいえ、その人たちの二十本の剣よりもあなたの目のほうが、よっぽど危険なのです。わたしにやさしい目を向けてさえくだされば、その人たちの敵意などはなんとも思いません。
【ジュリエット】 どんなことがあっても見つからないようにしていただきたいのです。
【ロミオ】 わたしは夜という衣にかくれていますから見つかりっこありません。でももしあなたが愛してくださらないなら、いっそここで見つけられてしまいたい、わたしの生命(いのち)は彼らの憎しみで断たれてしまったほうがましです、あなたに愛されることなく、死ぬ思いで生きつづけるよりは。【ジュリエット】 だれの案内でこの場所をお見つけになりましたの?
【ロミオ】 恋に案内されて、恋がたずねてみる気持ちを起こさせました。恋がわたしに忠告を与えてくれ、わたしは恋に目をかしただけ。わたしは水先案内ではありません。でもあなたのような価値ある商品のためなら、たとえあなたがはるかかなた、海を遠くへだてた向こうにある荒れ果てた異境におられようとも、必ず冒険をしてみせましょう。
【ジュリエット】 ごらんのとおり、夜という仮面(マスク)が私の顔をかくしているのです。さもなければ、今夜あんなことをあなたに立ち聞きされてしまったのですから、処女(おとめ)の恥じらいが私のほおを真赤に染めているはずですわ。それは私だってできることなら形式を重んじたい、できることなら私が言ったことばはうそだと言いたいのです。でも形式的なことはやめましょう。あなたは私を愛してくださいます。「そうだ」とおっしゃってくださいますわね? おことばどおり信じましょう。でもいくらあなたがお誓いになっても、その誓いをお破りになるかもしれません。恋人の偽りの誓いには、ジョーヴの神もただお笑いになるだけと申しますもの。おお、やさしいロミオさま、もしも愛してくださるなら、はっきりとおっしゃってください。また、それでは私があまりあっけなくあなたのものになるとお思いでしたら、私はこわい顔をして、ふきげんに、いやと申しあげてもいいのですわ、もしそうすれば言いよってくださるのならば。でなければ絶対にいやですわ。
ほんとうに、ロミオ様、私はおろかな女なのですわ。ですからきっとあなたは私の振舞いを軽薄だとお思いになるでしょう。でもこれだけは信じてくださいませ、よそよそしく振る舞ってみせる人たちより、私のほうがずっとずっと真実な女だということだけは。
私は申し上げなければなりませんが、もしあなたが私の知らないうちに、私の恋の気持ちをすっかり聞いておしまいにならなかったら、もっと私だってあなたによそよそしくしていたかもしれません。ですから、こんなにまで心をお許ししてしまったことを軽薄とはお取りにならないで。それは暗い夜がついこんなに明るみに出させてしまったことなのですわ。
【ロミオ】 あの木々のこずえを銀色に美しく染めてかがやいている、あの祝福された月にかけて、わたしは誓います……
【ジュリエット】 いえ、月にかけてお誓いなさってはいけません、あの不実な月、丸い形をひと月ごとに変えてゆく、変わりやすい月にかけてはいけません、あなたの愛がそれと同じように変わってしまうといけませんもの。
【ロミオ】 それでは何にかけて誓えばよいのです?
【ジュリエット】 誓いのことばなんかおっしゃらないで。
でも、もしおっしゃりたいなら、あなたご自身にかけてお誓いくださいませ、あなたこそは私の崇拝する神様ですもの、あなたのおことばなら信じます。
【ロミオ】 もしもわたしの心のこの愛の気持ちが……
【ジュリエット】 でも、やっぱりお誓いにならないでください。私はあなたがとても好きですけれど、今宵のこのお約束はなんだかうれしくないのです。あまりに向こう見ずで、軽率で、突然すぎますもの。まるで電光(いなびかり)のようですわ、「あ、光った!」というまもなく、消えてしまうようなものですわ。ロミオ様、おやすみなさい!
この愛の蕾は、夏のゆたかな息吹(いぶ)きにはぐくまれて、このつぎお会いするときには、美しい花を咲かせることができるかもしれません。おやすみなさい、今夜はこれで! 私の胸の中に宿るのと同じような、ここちよい平安が、あなたのお胸にもやどりますように! (第二幕第二場より)

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