「サロメ」

オスカー・ワイルド/三好弘訳

エキスパンドブック 307KB/ドットブック版 53KB/テキストファイル 23KB

200円

ユダヤの副王ヘロデは後妻の娘サロメの怪しい魅力のとりことなって、みずからの誕生日の宴席でしつこく踊りをせがむ。何でも希望のものをとらせるというヘロデの約束に対して、踊り終わったサロメの望んだものは予言者ヨカナーンの生首であった。世紀末の怪奇幻想趣味あふれる一幕悲劇。エキスパンドブック版には有名なビアズレーの挿し絵を収録した。

オスカー・ワイルド(1856〜1900)アイルランド生まれ。ダブリンのトリニティ・カレッジを経てオックスフォード大学へ。在学当時から詩才を見せ、耽美主義へ傾斜。小説「ドリアン・グレイの肖像」、フランス語の悲劇「サロメ」、喜劇「ウィンダミア卿夫人の扇」など、代表作を発表。時代の寵児となるが、男色罪で投獄され、出獄後は失意のうちに没した。

立ち読みフロア
【シリアの青年】 さすがだな、今夜のサロメは!
【ヘロディアスの小姓】 みろ、あの月を! いつもとは違う! よみがえってくる女、死んだ女のようだ。きっと死者をさがしているのでは。
【シリアの青年】 めずらしい月だ。かわいい王女のようだ。黄色いヴェールに、銀の足、まるで白い小鳩の足みたいだ。どうみても、躍《おど》っているとしかみえない。
【ヘロディアスの小姓】 死んだ女のようだ。あのゆっくりとした動きといい。
〔宴会場で騒がしい声〕
【第一の兵士】 あの騒ぎは! 何者だ、獣みたいに怒鳴っている奴は?
【第二の兵士】 ユダヤ人さ。いつもああなんだ。争っているんだろう、宗教のことで。
【第一の兵士】 何もそんなことしなくたってね?
【第二の兵士】 よくわからんが、いつもあの調子なんだ。パリサイ人が天使は存在するといえば、サドカイ人はそんなものいるかという始末だ。
【第一の兵士】 バカげた話だ。そんなことで争ったりして。
【シリアの青年】 本当にきれいだ、今晩のサロメは!
【ヘロディアスの小姓】 いやにみるね、いつも。いいかげんにしろ。失礼だよ、そんなに人をみつめるのは。恐ろしいことになるのでは。
【シリアの青年】 最高だな、今夜のサロメは。
【第一の兵士】 王の顔色が悪いが。
【第二の兵士】 うん、そういえばそうだ。
【第一の兵士】 何かをみているんだろう。
【第二の兵士】 いや、誰かをみている目だ。
【第一の兵士】 誰だろう?
【第二の兵士】 わからんね。
【シリアの青年】 王女のあの顔色は! あんな顔は初めてだ。銀の鏡に映る白バラの影のようだ。
【ヘロディアスの小姓】 よせよ、そんなにみるのは。いいかげんにしろ。
【第一の兵士】 みろ、ヘロディアスが王に酒を。
【カッパドキア人】 あれがヘロディアスか、真珠をちりばめた黒い冠の、青粉をふりかけた髪のあの人が?
【第一の兵士】 そうです、王の妃《きさき》のヘロディアスです。
【第二の兵士】 王は酒好きだからな。飲む酒も三種類とか。そのひとつはサマトラキア島でできる酒で、カエサルのマントのように真赤な奴だ。
【カッパドキア人】 みたこともないんでね、カエサルは。
【第二の兵士】 もうひとつはキプロスの町でできる金のような黄色い奴だ。
【カッパドキア人】 悪くないね、金とは。
【第二の兵士】 最後のはシチリアの酒で、血のように真赤な奴だ。
【ヌビア人】 血といえば、私の国の神々は血が好きで、年に二度は若い男女をいけにえにささげるんですよ。男五十人と女百人をね。それでも不足なのか、こちらの願いをかなえてくれなくてね。
【カッパドキア人】 わたしの国では神々はいないな。ローマ人に追っぱらわれてね。山の中にかくれているといううわさもあるが、どうだか。三日三晩も山の中をくまなく探してみたがダメだったからね。神々の名も呼んでみたが効果なかった。きっと死んだんだろうね。
【第一の兵士】 ユダヤ人は目にみえない神だって拝んでいますよ。
【カッパドキア人】 げせないね。
【第一の兵士】 事実、奴らは信じているからな、それを。
【カッパドキア人】 まったくバカげた話だ。
【ヨカナーンの声】 この次には私よりも力のある人が来る。めったにその人の靴のひもさえもとかしてもらえない人だ。その人が来れば、砂漠だってよろこび、百合のように花も咲き乱れ、めくらの人も日の光をみ、おしの人も聞こえるようになるだろう。竜の洞に手をかけ、獅子のたて髪をつかんでひき廻す赤ん坊だって生まれるかも。
【第二の兵士】 黙らせろ。またバカげたことをいいだした。
【第一の兵士】 いや、ほっとけ。あれは聖者だ。気だてだってやさしい。ちゃんと礼をいうよ、毎日、食べものをもって行ってやると。
【カッパドキア人】 何者だ、その人は?
【第一の兵士】 予言者だ。
【カッパドキア人】 名は?
【第一の兵士】 ヨカナーンだ。

……冒頭より

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