スカイラーク・シリーズ 3

「ヴァレロンのスカイラーク」

E・E・スミス/川口正吉訳

ドットブック版 298KB/テキストファイル 251KB

700円

恒星間宇宙の無限の果てを驀進する宇宙船ヴァイオレット号――そこに搭乗する二人の地球人と一人のフェナクローン人。彼らはフェナクローンの超弩級艦を一隻拿捕し、天才青年科学者シートンを葬り去って、地球上に独裁国家を建設しようと、恐るべき計略を企んでいた。一方、シートンの乗るスカイラーク3号は広大な宇宙空間で、絶体絶命の危機に陥っていた。そこから脱出するため、シートンは四次元の世界へ転移したのだが……。宇宙の果てで繰り広げられるスリルとサスペンスに満ちたスペースオペラ最大の傑作シリーズ第3騨!

E・E・スミス(1890〜1965)アメリカ・ウィスコンシン州生まれ。博士号を得ているため、E・E・《ドック》スミスと呼ばれるSF界の巨匠。「スカイラーク・シリーズ」で名を馳せ、金字塔「レンズマン・シリーズ」(全6巻)を雄大な構想のもとに完成させ、シリアスなハードSFの先駆者となった。

立ち読みフロア

一 デュケーン博士の計略

 来る日も来る日も、アレナック金属製の球型宇宙船は、恒星間空間の無限の果てを驀進(ばくしん)していった。この宇宙船は以前はオスノーム惑星の宇宙艦であったが、いまは名も「ヴァイオレット号」と改められ、二人の地球人と一人のフェナクローン人を乗せて、緑色太陽系からフェナクローン太陽系へと急いでいた。地球人はワールド・スチール社のマーク・C・デュケーン博士と、《ベビー・ドール》ローアリングというデュケーンの頭のするどい万能助手の二人である。フェナクローン人は、旗艦Y427W号の技師長であるが、ずんぐりした怪物である。とほうもない遠距離飛行の中間点はすでにとっくに通過し、いまヴァイオレット号は光速の五倍という逆加速度でブレーキがかけられつつあった。
 じつは航行中デュケーンもローアリングも驚いたのだが、捕虜のフェナクローン人は、ぜんぜん抵抗をしなかったばかりか、超人的というよりは超自然的な体力と巨人的な頭脳力のいっさいを挙げて、ヴァイオレット号の原子力エンジンを改造して、彼の種族に独特の空間ゼロ化駆動方式に作りかえていたのである。空間ゼロ化駆動方式は、動力バーの作用半径以内にあるすべての物質の原子にすさまじい影響を与えるだけでなく、加速度の悪影響をゼロにする力があった。したがって、宇宙船が最高出力で加速されているにもかかわらず、乗っている人はまるで静止状態のような錯覚をもつのである。
 技師長はおどろくほど熱心だった。どんなに気骨の折れる仕事でも決してたじろごうとはしない。こうしていったん改造の仕事にとりかかると、彼の属する高度知能種族がもっている伝統的技術の精髄(せいずい)を使いこなして、原子力エンジンをなんとか新方式の駆動装置につくり変えてしまった。すでに想像を絶した最高出力加速度が、彼の見事な調整と同調とにとって、たっぷり二パーセントも増加される始末であった。それだけではない。いっときはげしく抵抗したが、それがすむとケロリとして、彼の眼に備わっている、ほとんど不可抗の強制力をもつ催眠力すら一度も使おうとしなかった。彼の眼は、巨大な冷眼であって、紅玉のような光をもつ、すさまじい心的エネルギーの放射器なのだが、彼はこの恐るべき武器を、一度も二人の地球人に向けなかったのである。そればかりか、彼の太い脚にセットされた牽引(けんいん)装置に対しても、一度も不平をもらさなかったのは驚くべきことであった。
 牽引装置というのは非物質的な一種の拘禁(こうきん)バンドであって、被拘禁者に与える力はごく軽く、操作する人がとくに感じさせようとしないかぎり、脚にほどこされても、ぜんぜん感じないほどである。ところが捕虜がすこしでも逃げるというような不逞(ふてい)の動きを示すと、バンドから投射されている小さなエネルギーのビームは、すぐ銅駆動の純粋エネルギーの棍棒(ロッド)となって、あわれな捕虜を制御室の壁に押しつけ、相手がどれほど死にもの狂いで抵抗しても、ぜったい動けないように拘束するのである。
 デュケーンはゆったりと座席の上で横になっていた。いや、ほとんど座席にはふれず、空中に漂いながらくつろいでいたと表現すべきである。彼はフェナクローンの技師長の動きを観察している。黒々とした毛虫眉がぐっと寄せられ、黒い瞳が固い表情をつくり、全体がうさん臭いしかめっ面にゆがんでいた。異星の御仁(ごじん)は、そんなデュケーンの態度はどこ吹く風で、いつものように動力室のなかに半ば身を埋め、強力エンジンをなんとか手なずけ、すかし、おどし、もうすこし強く、もうすこし立派にと励ましているのであった。
 デュケーンはローアリングの視線を横顔に感じ、獰猛(どうもう)な眼をそのほうへ向けた。優男(やさおとこ)のローアリングは、デュケーンが異星の怪物を眺めていた以上に執拗な眼で、さっきから船長(チーフ)の様子をうかがっていたのであった。いつものように、天使もかくやと思われるばかりの、ほんのりと紅味のさした容貌であった。そして邪気のない炯眼(けいがん)もいつものとおり落ち着いて屈託がなさそうである。だがこの男を知るデュケーンは、炯眼にもそこにあるかなきかの緊張のけはいを読みとり、この殺し屋もまた内心ではかなり心配しているのだなと思った。

……巻頭より

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