「ソドムの百二十日」

マルキ・ド・サド/大場正史訳

ドットブック 191KB/テキストファイル 155KB

500円

「最大の快楽はもっとも醜悪な源から生まれる」という倒錯した悪徳の哲学を追及したサドの、ひとつの見本例をしめす作品。4人の男が若い美男美女をかき集めて、どことも知れぬ山ふかくの城砦を舞台に、想像を絶した饗宴をくりひろげる。
立ち読みフロア
 ルイ十四世の治世中に彼を悩ましたもろもろの大戦争は、国庫をからし、人民の資力を使いはたしたとはいえ、いっぽうでは、非常にたくさんの吸血鬼どもをかえって太らせるというふしぎな事実をもふくんでいた。彼ら吸血鬼は国家的な惨禍を待ちかまえていて、これを静めるどころか、よりうまく利益をせしめることができるように、かえって惨禍をひどくしたり、あるいはつくりだしたりするのである。
 四人の吸血鬼らが、これからわれわれが述べようとする乱痴気騒ぎの計画を思いついたのは、この時代の末期のことであった。一味のものがみんな素姓のいやしい、低俗な人間だと思ったら、それは見当ちがいで、頭株に立ったのは世にも令名の高い紳士諸君だった。
 ド・ブランジ公や、その兄弟で十何代目かの司教《ビショップ》などは、どちらも莫大な資産をたくわえていて、貴族というものがどんな機会ものがさずに巨富への道をたどったことを、彼らみずからりっぱに証明している。ところで、令名さくさくたるこのふたりの人物は、遊びや仕事を通じて、有名なデュルセとド・キュルヴァル議長と親交があった。そこで、放蕩三昧の計画を思いつくと、まっさきにこのふたりの友だちに計画をうちあけ、四人ともそろって異常な乱行の立役者を演ずることに意見が一致した。かなりの資産と趣味に結ばれたこの四人の道楽者は、およそ六年間にわたって、いろいろな同盟を結んで、おたがいのつながりを強化しようと考えてきた。彼らが仕組んだ計画とはつぎのようなものであった。
 三回男やもめになり、ひとりの妻が生んだふたりの娘の父親であるド・ブランジ公は、ド・キュルヴァル議長が父親との肉体関係をすっかり知りながら、姉娘のほうと結婚したいような素振りを見せたので、急に三者同盟を思いついた。
「あなたはジュリーを妻にほしいんですね」
 公爵はキュルヴァルにいった。
「ぼくはあなたにさっそく彼女を進呈します。ただこの結婚にはひとつだけ条件をつけたいんですよ。つまりあなたの妻になっても、彼女が従来どおりぼくにいんぎんを通じる場合、やきもちを焼かないことですな。それからあなたのお力ぞえをいただいて、仲間のデュルセに娘のコンスタンスをぼくにくれるように口説いてほしいんです。白状しますが、ぼくもだいたい、あなたがジュリーによせているのとおなじ感情をいだくようになったんです」
「だが」
 キュルヴァルはいった。
「きみは百も承知だろうが、きみとおなじ道楽者のデュルセは……」
「万事承知のうえですよ」
 公爵はふたたびつづけた。
「この年で、しかも、ぼくたちの一流の物の考えかたで、そんなことのために思いとどまれますか? ぼくが情婦にでもするつもりで妻をほしがっていると思いますか? ぼくが彼女をほしいのは、じぶんの気まぐれを満足させたいからですよ。数かぎりない秘密の淫蕩ぶりを隠蔽したいためですよ。結婚という美名をかりれば、うまうまと隠しおおせますからね。ひと口でいえば、あなたがぼくの娘をほしがっているのとおなじ理由で、彼女をほしいと思ってるんです。あなたの目的や欲望をぼくが知らないとでも思っているんですか? ぼくたち放蕩者は奴隷にするため、女と結婚するんです。妻となった彼女たちは、情婦よりももっと従順になります。それに、あなたも、ぼくらが追求する淫楽の横暴さというものを、ぼくらがどんなに重視しているかおわかりでしょう」
 ちょうどこのとき、デュルセがはいってきた。ふたりの友人はいまの会話を話してきかせた。すると、デュルセはその申しでを喜んで、さっそくじぶんもまたキュルヴァル議長の娘アドレイドにおなじ感情をよせていると告白した。そして、じぶんがキュルヴァルのむこになれるなら、公爵をじぶんのむこにしてもよいといった。三つの婚約はたちまち成立した。持参金は莫大な額で、婚姻契約はみなおなじだった。

……冒頭より

購入手続きへ


*** 作品一覧へ *** ホームページへ ***