スティーヴンスン短編傑作集1

「死骸盗人」

R・L・スティーヴンスン/河田智雄訳

ドットブック 190KB/テキストファイル 144KB

600円

冒険小説「宝島」で知られるスティーヴンスンは、同時に「ジーキル博士とハイド氏」など多くの怪奇小説を著した。本書にはそれらの中から、表題作をはじめ「ねじけジャネット」「マーカイム」「声の島」「びんの小鬼」など創意工夫にあふれた変化に富む8作品を収めた。

ロバート・ルイス・スティーヴンスン(1850〜94)スコットランドのエディンバラ生まれ。生涯、病苦との戦いに明け暮れ、転々とボヘミアン的な生活をおくりながら、すぐれた物語を書き続けた。1883年に著した「宝島」は「ロビンソン・クルーソー」以来の傑作冒険物語と評判をとり、出世作となった。代表作「ジーキル博士とハイド氏」「バラントレー卿」「新アラビア夜話」「若い人々のために」

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「さようです」と骨董商人は言った。「手前共でも、時には思いがけなく、ひともうけすることがありますが、その場合は色々ですね。何も知らないお客様がお見えになった時はわたくしは長年の経験を生かして、もうけることにしております。また、お客様の中には、ずるい方もいらっしゃいます」ここで彼は蝋燭を差し上げた。蝋燭の明りは客の顔をまともに照らし出した。「そんな時は、平生、心掛けがいいわたくしがもうけるんですよ」
 マーカイムは明るい通りから入って来たばかりだったので、明るさと暗さのいりまじった店にまだ目がなれていなかった。こうした当てこすりの言葉を聞き、目の前に蝋燭の明りをつきつけられて、彼はつらそうにまばたきし、顔をそむけた。
 骨董商人はくすくす笑った。「お客様はクリスマスの日にお店にお出でになったんですよ」と彼はまた話し出した。「クリスマスの日に、店の中にいるのはわたくしだけなので、店をしめて、商売をお断りすることにしていることをご存知のくせに。この償いはしていただきますよ。わたくしが無駄にした時間の埋め合わせはしていただかなくちゃ困りますよ。あなたのおかげで、収支の計算ができなくなったんですからね。それから、今日はっきり気がついたんですが、どうもあなたの態度がよくないので、この報いもお受けにならなくちゃいけませんよ。わたくしは極めて用心深い人間ですから、下手に何かお聞きするようなことはしませんが、お客様がわたくしの顔をまともにごらんになれない時は、その報いをお受けにならなくちゃいけません」骨董商人はもう一度くすくす笑った。それからふだんの商売用の声にもどったが、その声には、まだ皮肉っぽい口調が感じられた。「どうしてその品物を手にお入れになったのか、いつものように、はっきり説明していただけますね」と彼は話し続けた。「またおじ様の飾り戸棚から骨董品を持ち出して売りに来られたんですか? おじ様は大した蒐集家ですな!」
 小柄で、青白い顔をした、なで肩の骨董商人は、ほとんど爪先きで立って、金ぶちのめがね越しに彼をながめ、疑わしそうにうなずいた。マーカイムは、非常なあわれみと、幾分か恐怖のいりまじった表情で彼を見返した。
「今度はあんたの思い違いだよ」とマーカイムは言った。「今日は売りにじゃなくて、買いに来たんだ。もう売るような骨董品はないんだよ。おじの飾り戸棚は空っぽさ。たとえまだ飾り戸棚に手をつけてないとしてもだ。ぼくは株式取引所でひともうけしたんだぜ。骨董品を買い足しこそすれ、持ち出したりなんかするもんか。今日のぼくの用件は至極簡単さ。女性にあげるクリスマスの贈り物を探してるんだよ」用意して来た言葉を言い出すと、彼はいっそう雄弁になった。「こんなつまらぬ用件であんたを騒がせて、ほんとに申しわけないと思ってるが、昨日買物するのを忘れてしまったんでね。今日、食事の時に、ぜひ贈り物をしたいんだよ。あんたもよく知ってる通り、裕福な女性との結婚を取り逃がすっていう法はないよ」
 それからしばらく、話が途切れた。その間骨董商人は、不信の気持をいだきながら、この話の意味をよく考えているようだった。店の骨董品の中に置かれた、たくさんの時計のかちかちという音と、近くの往来を突進して行く辻馬車のかすかな音が、話の合間を埋めた。
「なるほど」と骨董商人は言った。「それなら、そうとして置きましょう。あなたは何と言っても、おなじみのお客様ですからね。それにもし、おっしゃるようにいい縁談がおありなら、わたくしは邪魔しようなどという気は毛頭ありません――ご婦人向きのいい品物がありますよ」彼は話し続けた。「この手鏡ですよ――十五世紀に作られた、保証つきの物です。それに、いい蒐集家から出た物なんですよ。そのお客様のために、お名前は言わないで置きますがね。その方は、ちょうどあなたのように、ある大変な蒐集家の甥御さんで、しかもたった一人の跡取りでしたよ」こうしてそっけない、辛辣な口調でしゃべり続けながら、骨董商人は手鏡を取り上げようと身をかがめた。その時、ショックがマーカイムの体をつきぬけた。手足は痙攣し、様々な激しい感情がさっと顔に現われた。それはあっという間に過ぎ去り、手が少し震える以外には何の痕跡も残さなかった。彼はその手で鏡を受け取った。

……「マーカイム」冒頭

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