「青春・台風」

コンラッド作・田中西二郎訳

エキスパンドブック 335KB/ドットブック版 172KB/テキストファイル 131KB

400円

コンラッドの海洋短編の代表作2編。「青春」は東洋航路のボロ帆船に乗り組んだ青春真っ盛りの船員の、「台風」は南シナ海で台風に遭遇した蒸気船の、それぞれの海と人との壮絶な戦いを見事に結晶させた佳品。エキスパンドブックにはH・A・ミュラーの木版画16点所収。

ジョーゼフ・コンラッド(1857〜1924) ポーランド生まれの英国の作家。帝政ロシア支配下の南ポーランドに貴族の息子として生まれた。本名ユーゼフ・テオドル・コンラッド・ナウェンチ・コジェニョフスキー。11歳で孤児となり、母方の伯父の家に引き取られる。のちイギリス船員になり、8年後イギリスに帰化し、結婚して作家生活に入った。名前もそのころに英国風に改めた。処女作「マライ群島のキプリング」が賞讃をもって文壇に迎えられ、以来、未完の長編「サスペンス」を残して急逝するまで、多くの長編、短編、評論、劇作を発表し、イギリスを代表する作家となった。代表作「密偵」「ロード・ジム」「ナーシサス号の黒人」など。

立ち読みフロア
  イギリスのように、いわば人間と海とが、たがいに隅々まで浸(し)みこんでいる国……海が大多数の人間の生活のなかに入りこんでいて、人間のほうも、娯楽でか、旅行でか、それとも生計の道としてか、海について多少とも、あるいは何から何まで、知っている……そういう国でないと、こんな景色はまあ見られないだろう。
  マホガニーのテーブルに、酒壜(さかびん)だの、葡萄酒盃(クラレット・グラス)だの、肱(ひじ)にもたれたみんなの顔だのが映っている、そのテーブルを囲んで、私たちは腰をおろしていた。一座は、諸会社の社長が一人、会計士が一人、弁護士が一人、それにマーロウと私とだった。社長はむかしコンウェイ号の乗組員だったし、会計士は水夫を四年間つとめたことがあるし、弁護士は……上等な古酒のように生粋(きっすい)の保守党(トーリー)で、厳格な国教徒で、仲間のうちでいちばん愉快なやつで、いのちよりも名誉を大切にする男……まだ郵便船が少なくともマスト二本を横帆(おうはん)装置にして、下にも上にも張った補助帆に、さわやかなモンスーンを孕(はら)ませながら、支那(シナ)海を渡っていった、なつかしいあの頃、P・&・O(ピー・アンド・オー)会社の船で一等航海士をやっていたのが、この男だ。
  私たちはみな商船の乗組員を人生の振りだしにした。私たち五人のあいだには、海という強い結びつきがあるのに、まだその上に同じ海員仲間としての親しみがあって、これはヨットが面白いの、遠洋航海が楽しいのというのとは、くらべものにならぬ親しみである。そんなものは人生を楽しむことにすぎないが、一方は人生そのものだからだ。

……《『青春』より》


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