「若草物語」

オールコット作/恩地三保子訳

ドットブック 653KB/テキストファイル 281KB

600円

アメリカの南北戦争時代を背景に、東部の町に住む決して裕福ではないマーチ一家の思春期の4人姉妹の日常を描いて、今もなお読みつがれる家族物語の名作。メグ、ジョオ、ベス、エイミーは、それぞれの道を求めて懸命に生きる。
「私が自分の未来の姿を垣間見たと言える本が一冊ある。それはルイーザ・メイ・オールコットの『若草物語』だ。……なかでも、私は知的なジョオに夢中になって、彼女に自分の姿を重ねた」(シモーヌ・ド・ボーヴォワール)

ルイーザ・メイ・オールコット(1832〜88)ペンシルベニア州に教育者の娘として生まれる。父親はエマスンやソローやホーソーンらと親しく、ルイーザも少なからず彼らの影響を受けた。教員や家庭教師、針子などで生活の資を稼ぐかたわら、ヤングアダルト向けの作品を書いていたが、自伝的な「若草物語」で成功。以後、その続編ならびに同じ系統の「八人のいとこ」「花ひらくローズ」など多くの代表作を発表した。

立ち読みフロア
「プレゼントぬきのクリスマスなんて、およそ考えられないな」炉端(ろばた)の敷物に寝そべったジョオは、不平たらたらの声で言った。
「貧乏(びんほう)って、ほんとにいやなものねえ」メグは、着古した服に目をやり、溜息(ためいき)をついた。
「すてきなものを、たくさん持っている女の子もいるのに、なんにもない子もあるなんて、あんまり不公平すぎるわ」まだ小さいエイミーまでが、いじめられっ子のようにクスクス鼻をならした。
「でも、あたしたちには、おとうさまとおかあさまと、それに、こんなにいいきょうだいがあってよ」いつもの場所から、ベスがおっとり口をいれた。
 炉(ろ)の火を映(うつ)した四つの若々しい顔が、そのあかるいことばにぱっと一瞬(いっしゅん)輝いたのに、すぐまた暗くかげってしまった。ジョオが悲しいことを言ったからだ。
「おとうさまはいらっしゃらないわ。それも、これから先ながいこと」
 ジョオは「たぶん、永久に」とは言わなかったが、みんなそれぞれ、遠い戦場の父親を思いながら、そっと胸につぶやいたのだった。
 しばらく、みなだまりこくっていた。と、メグが、気分をかえるように、調子を変えて話しだした。
「みんな、わかってるわね、なぜおかあさまが、今年のクリスマスはプレゼントなしにしようとおっしゃったか。この冬は、何もかもたいへんで、みんなにとってつらい冬になりそうだからなのよ。それに、兵隊さんが戦地で苦労していらっしゃるのに、自分のたのしみにだけ、お金をつかってはいけないと思っておいでだからだわ。あたしたち、どうせ、たいしたことはできやしないけれど、ちいさな犠牲(ぎせい)をはらうくらいのことはできるし、喜んでそうするべきなのね。でも、ほんとのことを言うと、あたしにはそれができそうもないの」
 メグは頭をふった。前からほしかった、きれいなものが、つぎつぎと目の前に浮かんで、まだあきらめきれないのだ。

……第一章の冒頭部分より


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