「嵐が丘」

エミリー・ブロンテ作/岡田忠軒訳

エキスパンドブック 807KB/ドットブック版 399KB/テキストファイル 320KB

600円

 イングランド北部のヒースの荒野の一画に暗い雰囲気の「嵐が丘」と呼ばれる屋敷があった。一人の青年が近くの屋敷を借りようと「嵐が丘」の主人を訪ねる。そこには無愛想なヒースクリフという主人の男が若い未亡人と正体不明の若い男、二人の使用人と暮らしていた。彼らは客の前でも平気でののしりあい、屋敷は陰気そのものだった。青年はその晩、屋敷の怨霊かと思われるものが出現する悪夢に悩まされる。翌日、彼はこの屋敷の召使いだった年輩の女性から、屋敷にまつわる愛憎とすさまじい復讐の物語を聞かされた。
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 一八〇一年……
 家主を訪問して、いま帰ったところだ……つきあわなくてはならない隣人は彼だけである。ここはたしかにすばらしい土地だ! イングランドじゅうで、騒がしい世間からこんなに完全に離れた場所に住みつけるなんて、信じられないくらいだ。人間ぎらいのぼくにとってはぴったりの天国といえる。ヒースクリフとぼくとはこの孤独の世界をともにするのにふさわしい組みあわせだ。彼はなんてすばらしいやつだろう! ぼくが馬を乗りつけると、彼の黒い目はひどく疑い深そうに眉の下に引っこみ、名前をつげると、両手の指はあくまで油断しないようすで、いっそう深くチョッキの中へ隠されてしまった。そのときぼくがどんな親しみを感じたか、彼は夢にも思わなかったのだ。
「ヒースクリフさんですね!」とぼくは言った。
 答えるかわりにちょっとうなずいただけだった。
「こんどあなたのお家をお借りしたロックウッドです。到着早々ごあいさつにまいりましたのは、スラッシクロス屋敷(グレンジ)をぜひともお借りしたいと、しつこくお願いして、ご迷惑じゃなかったかと思いまして……きのう聞いた話では、何か別のお考えもあったとか……」
「スラッシクロス屋敷はわたしのものですよ」と彼は不意をつかれたようにぼくをさえぎった。「できることなら、だれにも迷惑なんかかけさせやしないんだが……まあ、おはいり!」
 その「おはいり」は歯を固くあわせたまま言い、「くたばりやがれ」といった感情をしめしていた。彼がもたれかかっている門の扉さえ、そのことばに応じて開く気配はない。そんなようすを見たために、なおさらぼくはお言葉どおりはいってやれ、という気持になったらしい。ぼくなんかよりはるかにうちとけない男に興味をもってしまったのだ。

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