「ウィンザーの陽気な女房たち」

シェイクスピア作/大山敏子訳

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400円

小さな田舎町ウィンザーを舞台に、やくざで道化的な好色漢フォルスタッフが二人の夫人に言い寄ることで引き起こす<てんやわんや>。笑いとペーソスとドタバタ騒ぎのシェイクスピア喜劇の傑作。
立ち読みフロア
〔治安判事シャロウ、スレンダー、サー・ヒュー・エヴァンズ登場〕
【シャロウ】 牧師先生、わたしをとめないでください。わたしはこれを星法院(スター・チェンバー)に持ちこんで裁いてみせますぞ。サー・ジョン・フォルスタッフが二十人よってたかってかかって来ても、いやしくも、このロバート・シャロウ様に妙な真似はさせませんぞ。
【スレンダー】 何しろグロスター州では治安判事、しかも代表判事だからな。
【シャロウ】 そうだとも、スレンダー。しかもわしは裁判の記録係兼務でもあるんだぞ。
【スレンダー】 そうそう、その兼務係ってやつだ。何しろ紳士の生まれで、牧師様、自分でどんな書付けにでも郷士(スクワイア)と書くんでさ。為替にでも、証文にでも、領収書にでも、契約書にでも、郷士とね。
【シャロウ】 そうだとも。その通りだ。この三百年の間、いつでもそうして来たのだ。
【スレンダー】 この人以前のすべての後継者(・・・)もそうして来ましただ。この人のあとにつづく先祖さま(・・・・)たちもきっとそうしますだ。きっと紋章には十二匹のかわかます(・・・・・)をつけますだ。
【シャロウ】 あれはなかなか古い紋章でね。
【エヴァンズ】 十二匹の白いしらみ(・・・)は古い紋章にはよく似合いますな。まったくよく似合いますな。右前足をあげて、右向きに歩いているところが。あれは人間にはきわめて親しみのある動物で、愛を意味するということです。
【シャロウ】 かわかます(・・・・・)は活(い)き魚じゃよ。塩かます(・・・)は乾し魚じゃが。
【スレンダー】 わたしはそれを分けて貰って使おう。
【シャロウ】 いいともさ、結婚でもすりゃな。
【エヴァンズ】 なるほど、分けちまえば欠陥(・・)ということだ。
【シャロウ】 いや、とんでもない。
【エヴァンズ】 いや、たしかなことだ。もし彼があんたの服(コート)を分けてもらっちまえば、まったく、あんた自身の手にゃ、裾(すそ)が三つしか残りゃしませんぜ。でもまあそんなことはどうでもええ(・・)こって。もしも、サー・ジョン・フォルスタッフがあんたの名誉を傷つけるようなことをしたというのなら、わたしも教会の一員だから、よろこんであんた方の中に入って仲裁と調停を相つとめることにしましょう。
【シャロウ】 枢密院に訴えてやるぞ。暴動だからな。
【エヴァンズ】 枢密院は暴動の訴えをするにはふさわしくありません。暴動は神をおそれぬふるまいですからな。枢密院は、いいですかな、神をおそれることを取り上け(・)るところで、暴動なんかを取り上け(・)ません。だから悪いことは言わない、ようくお考えなさったほうがよろしい。
【シャロウ】 ああ! もう一度若くなれるもんなら、剣で決着つけてやるんだが!
【エヴァンズ】 友情っていう剣で決着つけるほうがもっとええ(・・)ってことです。それにわたしのこの頭ん中にもう一つええ(・・)考えがあります。それがもしかすると、ええぷん別(・・・)を与えてくれるかもしれません。アン・ペイジって娘さんがいますがね。ジョージ・ペイジさんの娘でね、なかなかきれいな生(き)娘ですわ。
【スレンダー】 アン・ペイジさんのことですか? あのかっ(・・)色の髪をして、か(・)細い声でしゃべる娘さんですね?
【エヴァンズ】 そうです。まったく、あんたの希望にぴったりの娘さんですわい。それに金が七百ポンドに、金銀、つまりあの娘の祖父(じい)さんが死ぬ間際に(神よ、どうかよろこびの復活に導きたまえ!)あの娘にやってくれ、あの娘が十七歳になったら受けとれるようにと、遺言状に書いたってことですわ。だからここで、とんて(・)もないこたこた(・・・・)を引き起こすよりは、アブラハム・スレンダー君とアン・ペイジ嬢との結婚を望んだほうがずっとええ(・・)考えだとわたしは思いますがね。
【シャロウ】 あの娘には祖父(じい)さんが七百ポンドも遺産をくれるのかね?
【エヴァンズ】 そうですとも。それにあの娘の父親が、それにまた幾らか足すはずですわ。
【シャロウ】 わたしもあの若い娘は知っとる。いい娘じゃ。
【エヴァンズ】 七百ポンド、それにもっと多くの財産を相続する見込みがある、ええ(・・)娘ですわ。

(第一幕第一場より)


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